第22話 一瞬の勝利
ヤコとルイはどちらかと言えば仲が悪い。少なくともヤコはルイのことを見下しているし、ルイはヤコのことを小うるさい親のように思っている。そんな二人だが、信頼は確かにあった。
ルイはあまりヤコの力を使いたがらない。理由はいくつかあるが、この力を公にしたくない、というのが一番とも言える。ヤコの力はそれほど強力だからだ。
そんなルイがヤコの力を解放する時は決まって『誰かが身の危険にさらされている時』だった。
ルイは他人の死をよく嫌う。無論、他人の死を喜ぶ者などそういないが、ルイは余計に怖がっていた。
ルイの意識が薄れれば薄れるほど、ヤコの力は強くなっていく。それはルイがヤコの力を制御しているとも言えるだろう。
だがケンシロウが負傷し、命を奪われかけた今、ヤコの力を制御している場合ではなかった。ヤコはルイの意識を精神世界の奥深くへと沈めていく。ルイを守り、みんなを救うために――
ルイの体を乗っ取ったヤコが右手に持った刀を振り上げた瞬間、〝
『やはり武器を使っての攻撃は慣れんな。素手でいくか』
日本刀を鞘に納めると、右手を〝
連続で攻撃を受けた〝
『グオォォォォ!!』
背中の森から巨大なつるを伸ばし、叩き潰そうとする。目的はヤコではなくケンシロウだった。
『しまった!』
完全に意識から抜けていたヤコは慌ててケンシロウを助けようと手を伸ばす。
一方森の入り口に向かっていたカエデとユウは〝
二人の危機を感じ取ったカエデは助けに行こうと考えた。
「ユウちゃんはここにいて。うちはルイたちの手助けをしてくるわ」
ここまで来ればユウを一人にしても安心であろうと結論を出したカエデは、荷物をユウに預けバケモノのいる方に走り出した。
「絶対そこから動いちゃだめだからね!」
森の奥にカエデが消えたのを確認すると、ユウは遠くにいる〝
「
*
間一髪ケンシロウを助けたヤコは動けない彼を背負い、〝
『ワタシ一人ならどうとでもなるのに……! おい、いい加減動け! この小童が!』
ヤコの背中でケンシロウがか弱い息を吐く。
「そうしたいのは、やまやまッスけど……。悔しいことに体が思うように動かないんス……」
『くそぉ、脳の神経でもやられたか? まったく』
背負ったままただ逃げ回るわけにもいかない。どこかにケンシロウを置いておきたいヤコだったが、このバケモノまるで隙がない。どれだけ死角に逃げてもすぐに見つけては追いかけてきた。このままでは〝
『ケン、おも……ってか、ルイの体が貧弱なのだ! このもやしっこが!』
息があがり体力も底を尽き始めたヤコは足がもつれ、バランスを崩して倒れた。ケンシロウの下敷きになって身動きのとれなくなったヤコは死を覚悟する。
〝
「ルイ、大丈夫!?」
『半妖! オマエは遠距離からの攻撃だろう!』
声も姿もルイと同じ。だがいつもとどこか違う雰囲気のルイを訝しみ、カエデは足を止める。
「は、はんよう? ルイ……や、てか、誰……?」
カエデはヤコのことを知らない。だが説明している時間も余裕もなかった。止まっていた〝
『話はあとだ。こやつを倒すぞ!』
カエデが振り向けば〝
「
咄嗟に槍を放つが威力が足りず、足止めさえできない。食べられそうになるのを間一髪避けたカエデはそのままヤコの背中にまわる。
「ムリムリ! こんなの倒せるわけない!」
『弱音を吐くな!
「
そんな軽口をたたき合っている場合ではない。敵はまだ目の前にいるのだから。
『とりあえずヤツをひるませるために最大火力で技を打て! なんでもいい! 少しでも隙ができればあとはワタシがやる!』
言われるがまま、カエデは技を打つためのモーションに入った。両手を前に広げ、力強く詠唱する。
「
轟音とともに雷が落ちた。途端に悲鳴をあげる〝
一瞬の隙をついてヤコが動く。力強く地面を蹴りあげると、刀を持つように両拳を握り合わせる。
『宝刀・鏡花水月』
詠唱とともに乳白色に光る刀が現れ、全身全霊をこめて振り下ろす。
『
〝
『グガァァァァ!!』
けたたましい叫びをあげながら〝
ヤコの手にあった刀もすぐに消え、ヤコは〝
「やったぁ!」
こんな大きさのバケモノを倒せたのか、と穴があくほど見つめている。そして得意げに鼻を鳴らすのだった。
子どものようにはしゃぐカエデとは裏腹にヤコは静かに喜んでいた。バケモノを倒せたことにではなく、死者が出なかったことにだ。
『ルイ、勝ったぞ。誰一人命を落とすことなく、な』
精神世界に沈んでいたルイはゆっくりと目を開ける。まだ体を入れ替わることはできないが、精神世界から外の様子を伺う。
夢現なルイを気遣いながら負傷したケンシロウの元へと駆け寄るヤコ。
その時だった。突然ヤコの脇を抜け、カエデが吹き飛んできた。木の幹に強く体を打ちつけられ、あまりの痛みにカエデは声も出せずただ体を震わす。
『半妖!』
何度か咳をするたびに吐血している。強く打ちつけられた頭からはとめどなく血が流れ出ている。カエデを吹き飛ばした犯人の方を向き、ヤコは青ざめた。
『なんで……』
確かに脳天を貫いた。ぴくりともしなかったはずだ。それなのに……。
〝
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