第57話 魔力パイプと、夏野菜のカレーと、滅亡回避

 お盆が明けて今日は各段に暑い。

 取り調べに呼ばれたがいつもの通りだ。

 オンラインショップの業績は上がっている。

 そりゃ、売れるよね。

 虫歯の治療痕さえ、綺麗に治るんだから。


 仕事に出かけた才華がトラックに乗って家に戻ってきた。

 荷台を見ると、木のパイプと水槽と何やら機械が積んである。


「これ何?」

「魔力パイプよ」

「へぇ、魔力を感知出来たんだ」

「悔しいけど、それはまだよ」


「じゃあ、これは何?」

「藻があるでしょ。あれを循環させるの」

「ええと、突っ込みどころ満載の機械だなぁ」

「設置してみましょう」


「マスコミがいるけど」

「人が消えたので無ければマスコミは気にしないわ。パイプの先が少しぐらい消えても気が付かないはずよ」


 才華はテキパキと装置を設置する。


「さあ、スタンピードを起こしてパイプを異世界に繋いで」


 生シイタケをパイプに付けておすそ分けスタンピードを起こす。


「この道具は何だ?」


 繋いだ先のクルームが呆れたような口調で話す。


「魔力パイプだよ」


 パイプで魔力が運ばれているのが分かる。

 カボチャの時とは比べ物にならない。


「大変です。世界樹が凄い勢いで蘇り始めました」


 クルームの部下が報せに来た。

 世界樹も復活したか。

 カボチャの時も復活したが、あれより凄いのだろう。

 これでクルームに恩が返せたな。


「藻って凄いんだな」

「ええ、水質浄化にも使ってるわね。それより、魔力が空気に沢山含まれていると実証できたわ」

「どういう事?」


「地球側では藻に空気の泡を混ぜている」

「うんうん」

「土に含まれる魔力は空気に溶け込むみたいね。魔力の発生源は地球の核にありそうだわ」

「異世界の魔力が足りないのは、核に力が無くなったからかな」

「いいえ、たぶん魔法で消費したのでしょう」

「地球は魔力を使ってないものな」

「ええ」


「昼飯の準備をしよう。何にするかな」

「カレーが良いわ」

「よし、夏野菜のカレーにしよう」


 材料はナスとキュウリとゴーヤとカボチャ。

 それに肉。

 肉は牛肉にしよう。


 野菜を炒めてから肉を投入。

 そして、水を入れる。

 アクを取って煮込んだら、ルーを溶かし夏野菜カレーの完成だ。


「頂きます」

「頂きます」


 うん、野菜の味が溶け込んでいい味になっていて、ゴーヤの苦みがちょっと大人の味を演出してる。

 テレビをつけたら、『あの万能細胞の家に、謎の装置出現』とテロップが出た。


 パイプを映している。


「これは何だと思われますか?」

「機械を見る限り。水を循環する装置のようです。何の為か分かりませんが」

「万能細胞に関係あるのでしょうか?」

「無いとは言えませんね」


 アナウンサーとコメンテーターのかすってもいない会話が続く。


「ねぇ、いろいろな種類の野菜を地蔵に供えたらどうなるのかしら」

「どうなるんだろうね。腹ごなしにやってみるか」


 地蔵にキュウリ、インゲン、ナス、カボチャ、ツルムラサキ、モロヘイヤ、ゴーヤ、ミニトマトを供える。

 1メートルの間隔を空けて、森、墓場、洞窟、草原、村、砂漠、海、山と色んな地域に繋がった。


「これなら、沢山魔力パイプを設置できるわね」

「一か所に集中すると何か不味いのか?」

「エネルギーだから、どんな問題が起こるか分からないわ。魔力の研究は門の前に立ったところよ」

「安全策は取っておいた方がいいか。それと今は夏だから作物があって、機械を設置する場所が取れない」


「畑は移転出来ないの」

「嫌だ。絶対に嫌だ。土づくりは大変なんだよ。ここまでするのにどれだけ掛かったか」

「冬ならいいのね」

「うん、冬は作物が少ないから」

「本格的にやるのは冬にしましょう」


 境界をエイザークの所と繋ぐ。

 パイプも持って行った。


「アルカナを呼んできてほしい」

「おう、いつも急だな。誰が呼んで来い」


 しばらくしてアルカナが現れた。


「どのぐらい魔力が出ているか計測できるかな」

「やってみます」


 アルカナは魔道具で魔力を計った。


「すごいですね。どういう仕組みですか」

「藻が魔力を運ぶんだよ」

「それは理に適ってますね。植物のツルだと個体は一緒です。ですが、藻なら小さいですし、このパイプの量だと、何億いるか」


 てっきり、体の大きさに魔力が比例すると思ってた。

 そんな事はないんだな。


「でどれぐらいの量だ?」

「これを100年間続ければ、そちらの世界は10万年は安泰でしょう。」


 パイプは同時に10本はいけるだろう。

 冬だけだとすると、40年で地球滅亡が防げるのか。


 俺は肩の荷が一つ下りた気がした。

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