第55話 検証と、人命救助と、いなりチャーハン

 今日はお盆。

 取り調べもお休みだ。

 台風が来てたのだが、進路がそれて、大した事が無かった。

 雨は長雨で無ければ、さほど作物に影響しない。

 問題は風だ。

 支柱が必要な作物なんかだと、風にあおられて、茎がぽっきり折れてしまう事もある。


 とにかく、それてくれて良かった。

 お盆なので空気を読んだのかな。

 雲の流れは早いが、雨も降っていない。


 今日は休みだ。

 収穫以外の仕事はしない。

 収穫などすぐに済む。

 ものの10分だ。


 テレビをつけた。

 エリクサーの検証をやっている。

 あの豆をいたらどうなるか、意見を戦わせている。

 そんな事を考えた事は無かったな。

 やってみるか。


 オークダンジョンに行き、エリクサーを植える。

 植物成長の杭を打つ。

 瞬く間にインゲンが実った。

 豆は光ってない。

 そりゃそうだよね。

 豆が凄いんじゃなくて、そこに宿った魔力が凄いんだ。

 むっ、豆は関係ないのか。

 じゃあ魔法って何だ。

 魔力を材料に何か出来上がるのが魔法だろう。


 何が出来上がるのかな。

 たぶん、回路みたいなものかな。

 良い線いっている気がする。


 魔力眼鏡でも回路は見えない。

 解像度が低いせいだろう。

 下級の魔石を使ったのかもな。

 最上級だと魔力回路が見えたりしてな。


 エイザークの所にお邪魔した。


「魔力感知の魔石の良いのを使えば模様とかが見えないかな」

「そんな事はないぞ。微弱な魔力を感じ取れるというだけだ。魔力が模様になっているなんて聞いた事がない」


「魔力的な虫眼鏡を作れないかな」

「無理だな。二つの魔石を組み合わせる試みは成功したためしがない」


 そりゃそうだ。

 二つの異なる電子回路をごっちゃにしたってまともな物は出来ない。

 二つとも機能させるのは、つなぐための回路が要る。


 なかなか魔法も難しいな。

 やっぱり研究は才華に任せよう。

 俺には素人考えしか出来ない。

 気分転換に散歩に行くか。


 近くの川に散歩に行ったら、子供が遊んでいる。

 マスコミも川の岩場にはついて来なかった。

 崖登りしないと辿り着けないからだ。


 俺も昔は川で遊んだな。

 ここらの川の水温は低い。

 暑い時に入ると体が冷えて気持ちいい。

 冷えすぎると唇が紫になってガタガタ震えがくる。

 そうすると川から上がって岩にへばりつく。


 岩は温められて熱くなっているのですぐに体が温まる。

 へばりついている間はする事がないので、木苺を採っておいて、その時に食ったりした。

 いやー、懐かしいな。

 子供達から突如悲鳴が上がった。

 変態でも現れたか。

 現場に行くと小学1年生ぐらいの男の子が溺れていた。

 やばい助けなきゃ。

 俺は川に入ると、子供を抱き上げた。

 片足が痙攣けいれんしている。

 足がって溺れたのか。

 岩場に引き上げ人工呼吸するために水を吐かせようとした。


 駄目だ。

 水を吐かない。


 子供達の一人が連絡したのだろう。

 消防車と救急車が現れた。

 もう俺に出来る事はないな。

 消防隊員に全て任せた。


 あの子供は助かったのだろうか。

 家に帰っても気になって仕方がない。

 テレビを付けていたらニュースで意識不明の重体と報道してた。

 心肺停止ではないのか。

 じゃあ生きているんだな。


 夕飯の支度をする時間だ。

 今日はいなりチャーハンにしよう。

 チャーハンを作って麺つゆで煮た油揚げに詰める。

 いなりチャーハンの完成だ。


 子供の意識が戻るように、畑の隅の地蔵に、いなりチャーハンをお供えして祈った。

 才華が帰って来た。


「今日、溺れた子供を助けたんだ。でも何も出来なくて」

「気が動転してたのよね。仕方ないわ。最善を尽くしたのなら、気に病む必要はないと思う」

「そうなんだけど。もっと出来た気がして。あの時、回復のタオルがあれば。エリクサーを持っていれば」


 回復のタオルは才華の所にある。


「たらればを考えるのは無駄な事よ。もう起こってしまったのだから、忘れるのね」

「子供が入院している病院を調べられる?」

「ええ、時間は掛かるけど」

「調べてくれないか」

「良いわよ。今日は病院に行っても面会させて貰えないと思うから、明日になったら行けば良いと思う」


 いなりチャーハンを才華と食ったが、美味くなかった。


 食後、才華は電話を掛けて子供の名前と病院を突き止めてくれた。

 名前の名字を聞いて、俺は驚いた。

 シゲさんと同じ名字だったのだ。

 孫か親戚だろう。

 シゲさんにも話をした方がいいな。

 たぶんその方が話が早い。


 回復バスタオルを才華に持って来てもらって、俺はエリクサーの粉を作った。

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