第49話 連絡会と、仮設トイレと、カボチャサラダ

 今日は朝から雨。

 畑の収穫はやっているけど他の作業はしない。

 暇だ。

 マスコミの相手をするのも疲れる。

 才華は昼間、仕事に出ている。


 玄関のチャイムが鳴った。

 マスコミかな。

 マスコミお断りの張り紙を無視した訳じゃないだろうな。

 弁護士の電話番号に掛けてくれと書いておいたから、取材の申し込みならそっちに行くはずだ。


 玄関を開けると傘を差した知らない女性が立っていた。

 30代ぐらいかな。

 それほど美人でもない。

 マイクもない。

 派手に化粧もしてないから、アナウンサーではないだろう。

 後ろにカメラマンも立っていないな。


「ええと、どちら様で?」

「私は父をあなたに救われた者です。甲斐蘇かいそと申します」

「どうぞお入り下さい」


 ちゃぶ台の前に座って貰った。


「お茶とコーヒーどっちが良いですか? お茶はペットボトルだし、コーヒーはインスタントですけどね」

「お茶でお願いします」


 俺は冷蔵庫からお茶を取り出した。

 俺はピッチャーに入ったアイスコーヒーをコップに注いだ。

 ガムシロとミルクを出して、アイスコーヒーに入れる。

 彼女にはお茶には空のコップをつけた。

 お茶菓子を適当に盛って、お盆に載せて持って行く。


 俺はアイスコーヒーを一口飲むと口を開いた。


「どういう用件かな」

「救われた人達の一部が、連絡会みたいな物を作りまして、今日はそのご挨拶に」


 うーん、ファンクラブみたいなものか。

 被害者会の反対の奴かな。

 なんと言ったら良いんだ。

 支援者が一番近いか。

 後援会かな。


「俺の名前で勝手に活動されると困るんだけど」

「まだこれといった活動はしてません。救われた人に声を掛けて連絡網を作っているだけです」

「まだと言ったから、何か活動したいんだよね。そう思っているんでしょう」

「ええ。ところで、会社を作りませんか」


 税金対策に会社を作るのは良いな。

 いい提案だ。


「別に作るのは構わない。たいして給料は払えないけど」

「儲ける手段ならいくらでもあります。飴の値段をもっと上げてもいいでしょう」

「それはしたくないな」

「立派な心掛けです。感服しました。その他ですと。本を出版したり、講演会を開いたり色々と出来ます。裁判に勝てればテレビに売り込む事もできるはずです」


 本て何を書くんだ。

 講演も喋る事はないぞ。


「じゃあとりあえず会社を作ってから考えよう。当分のあいだは裁判で忙しいから俺は何も出来ないけど」

「大まかな方針を指示してくだされば従います。あなたに取締役になって頂いて、一人から始めましょう。私達はアルバイトとして雇って頂ければ結構です」


 彼女は連絡先を書いた紙を置いて帰って行った。

 会社を作る事になったが、何をしたら良いんだ。

 異世界グッズの販売かな。


「連絡網というか後援会の名前は決まってる?」

「いいえ、連絡網とだけ。あなたが、決めて下さい」

「じゃあ、マイサポ会でいいや」

「ではそのように」


 夕方になり才華が帰って来た。


「俺、会社をやる事になったから」

「良いんじゃない」

「異世界の物で売れるのはこれといってないんだな。地球の製品は便利だから」

「獣除けの杭は売れると思う」

「あれね。効果を永続させるのは魔石が必要なんだよな。獣を寄せ付けない能力のモンスターがいるかな」

「聞いてみたら」

「そうだね。異世界に行けるようになったら聞いてみる」


「明日にも行ってみたら」

「マスコミが邪魔なんだよな。人が消えたら不味いだろ」

「なによ、そんな事悩んでたの。境界ギリギリに仮設トイレを設置すれば良いわ。扉が二つある特注の奴をね」

「ナイスアイデア。それは良いな」


 トイレの中にマスコミは入らない。

 長い時間こもっていても不思議じゃない。

 トイレで読書する人もいるからな。


 今日はカボチャが6個採れたから、これで1品作ろう。

 茹でたカボチャの皮を取って適度に潰す。

 マヨネーズを入れて、キュウリと玉ねぎのスライスを入れる。

 混ぜて、塩胡椒で味をととのえたら、カボチャのサラダの完成だ。

 メインは冷凍食品のから揚げにした。


 才華と食卓を囲む。

 から揚げの脂っこい口の中をカボチャサラダで緩和する。


「から揚げは普通だけど、カボチャサラダは美味しいわね」

「有機無農薬野菜だからな。土からして違うんだ。カボチャの甘味もそうだが、キュウリと玉ねぎも店売りとは違う」

「店に卸せるぐらい美味しいわね」

「そういう話も来た事がある。でも量が採れないから断った。有名店らしかったけどね」


 食事が終わり、才華が仮設トイレの手配をしてくれた。

 明日、届くそうだ。

 気兼ねなく異世界に行けるぞ。

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