第50話 仮設トイレと、威圧の魔法と、ゴーヤと豚肉のキムチ炒め

 仮設トイレが届いた。

 境界に設置してもらう。

 扉を開けてみた。


 扉が二つあるのでゲートだな。

 扉を開けてもビニールの黒い帯が沢山垂れ下がっている。

 中は見えない作りだ。

 俺が中に居なくなっても気が付かないはず。

 注文通りで満足だ。


 アンデッドダンジョンに繋いで中に入った。


 アンデッドは相変わらずシイタケを作っている。


「貰うよ」


 俺はかごにシイタケを入れた。


「殿、そんな事なさらなくても。命令して下されば」


 リッチの骨造ほねぞうが現れた。


「食料は足りている?」

「はい、採れたシイタケを食べておりますれば」

「なら、いいや」


 交易を再開するなら、シイタケをアンデッドの食料には出来ない。

 トイレに牧草を持ち込むのは不味いな。

 いくら何でも怪し過ぎるだろう。

 家畜を飼ってないのに牧草を買うのも怪し過ぎる。

 しばらくはシイタケで我慢してもらうしかないな。


 仮設トイレを経由して畑に戻る。

 そして、ジャガイモを供えて、エイザークの所に行く。


「久しぶり」

「おお、久しいな」


 俺はシイタケを渡した。


「獣除けの魔石なんてある?」

「無くもないが、あまり役に立たないぞ。威圧の魔石だ。慣れると効果が無くなる」

「花火と一緒か。じゃあ意味がないな。精神魔法の魔石はないの」

「上級アンデッドが落とすが、貴重だな。獣除けに使うのは勿体ない」


「威圧の魔石で妥協するか」


 杭に威圧の魔法を掛けてもらった。

 杭から怖い近寄りたくないという何かが出てる。

 しばらくしたら慣れた。

 慣れるんだな。

 野生動物にどれだけ効果があるだろうか。


 売り物が出来たが、交易を再開するには、アンデッドの食料問題をなんとかしないと。

 生き物の精気を吸わせれば、シイタケなんかよりましだろうな。

 生きたマウスを買ってみるか。

 爬虫類の餌用に売っている。


 普通の人なら可哀想な気もするとか言うんだろうが、ネズミは農家の天敵だ。

 地面に穴を掘って芋を齧る奴すらいる。

 俺も耕している最中に飛び出したのを叩き殺している。

 ネズミ死すべし。

 とにかく哺乳類は天敵が多い。

 慈悲など必要ない。


 ペットショップまで車を走らせ買って来た。

 コンビニ袋に生きたマウスを入れて、仮設トイレに入る。

 アンデッドダンジョンに繋いだ。


「殿、また来られたのですか」

「食い物を持ってきた」


 蠢くコンビニ袋。

 中にはマウスの赤ん坊が一杯いる。


 骨造ほねぞうが袋の中を覗いて、笑ったような気がした。


「では頂きます」


 袋からつまみ出されたマウスが干からびて塵になった。

 非難の声が上がりそうだが、俺達は生命を頂いて生きている。

 植物は悲鳴など上げないが、とにかく生きていくには生き物を殺さにゃならん。

 モンスターも同じだ。

 生きていく為には生き物を殺さないといけない。

 食い物に感謝の念を持っていれば良いと俺は考えている。


「どうだ?」

「素晴らしいです。草とかシイタケもよろしいのですが、動物は良いですね。魔力の濃度も高く1匹で当分持ちそうです」


「これからは精気を吸い取る動植物は大事にしろよ」

「それは済まないと慙愧ざんきの念にかられろと言うのですか」

「いいや、命を貰って感謝しろと言っている。食事行為で無駄にしなければ良い」

「ふむ、徹底させます」


 アンデッドの食料問題はこれで解決したな。

 昼飯にするか。


 白菜のキムチと豚肉を買って来た。

 それを切ったゴーヤと炒める。

 塩で味を調えたら、ゴーヤと豚肉のキムチ炒め完成だ。


「頂きます」


 キムチのピリ辛い味とゴーヤと豚肉が良い感じだ。

 ご飯がいくらでもいける。


 そうだ、威圧の杭を才華に送ってやろう。

 実験してくれるはずだ。

 マスコミにばれないように送るにはあれだな。

 俺は電話を掛けた。


 しばらくして。


「ちわー、出前です」


 そう言って軽薄そうな茶髪の兄ちゃんが岡持ちを持ってやって来た。

 俺は中に招き入れた。


「運んでほしい物は?」


 俺は杭持って来て、差し出した。


「うひっ、何だ! これは? 修羅場はくぐってきたつもりだけど、ビビっちまったよ」

「野生動物撃退の杭だ」

「人間にも効果ありってわけか。いいだろう、運ぶ物の詮索はしない。ルールだからな」


 運び屋が杭を岡持ちに仕舞って、鬼のような形相で玄関から出た。

 マスコミが威圧され遠巻きにする。


 杭の効果だと思う奴はいないだろう。

 一流の運び屋だと演技も出来るんだな。


 杭は才華の下に届けられるだろう。

 しばらくして、才華からスマホに電話が掛かってきた。


「素晴らしいプレゼントをありがとう」

「いいんだよ。役に立つようなら売り物にしたい。製品評価よろしく」

「ええ、愛してるわ」


 電話を切る。

 運び屋なんてものを初めて使ったが、便利だよな。

 お金は10万円掛かったが、その価値はある。

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