第44話 証拠隠しと、別れと、シイタケのバター炒め

 暑いな、うだるような暑さだ。

 才華は既に仕事に行っていない。

 何の仕事かは聞いても教えてくれない。

 研究とだけ言われた。

 特許とかあるから、例え身内でも情報は洩らせられないのかも知れない。


 暑さがまだましな午前中に畑仕事を終えると才華が帰ってきていた。


「明日、自首するのよね。やばいぶつは全部段ボールに詰めて」


 才華が持ち逃げしたりしなよな。

 でも同棲するような仲だし信じてみよう。

 姿隠しなんかは本当にやばい。


 信じるしかないよな。


 段ボールに迷いの魔法と獣除けの杭を入れ、回復のバスタオルとタオルを入れる。

 それから、ウィルス消去のショールと痛み止めのハンカチ。

 念話の腕時計と入れ、魅了のブレスレットを入れ、最後に姿隠しの腕輪を収めた。


 今の俺は完全な一般人だ。

 スーパーパワーを失ったヒーローの様な気持ちだな。

 寂しいが、ホッとした感じもある。

 映画なんかだと、パワーを失って平和に暮らすんだよな。

 そして悪役が出て来て、主人公がパワーを取り戻して一件落着って所か。


 スマホで掲示板をチェックする。


【朗報】心霊治療開催15【気軽に来てね】

388

今日はまだ開催の書き込みがないな


389

午後3時頃やった事もあるし

何か用事でもあるんじゃないか


 アリバイ工作に書き込めって言われたんだよな。

 偽物の犯人が掲示板を利用してないのはおかしいから。


390

きっとスーパーパワーを失って平凡な人間に戻ったのさ


391

映画かよ


392

オカルトでもない超科学力でもない説は珍しい


393

スーパーパワーはあるんだ


394

ヒール野郎に続く濃い奴が現れたな


395

かまうなよ

粘着されるぞ


 こんな物で良いだろう。

 さて、異世界に出かけるか。

 ユークスの所に行くか。

 刑務所に入ると長い間会えなくなるかも知れないからな。


 インゲンを地蔵様に供えた。

 背景が墓場に変わる。

 アンデッドの確認をして、境界からシイタケを持って、おすそ分けスタンピード。

 いつものように街に入った。

 市場に行くとユークスが、ナスの煮汁とヤーコンと玉ねぎのお茶を売っている。


「あっ、おじちゃん」

「しばらく会えなくなるかも知れないから会いに来た」

「どこかに行っちゃうの?」

「仕事で外国ぐらしになるかも知れない」

「また帰って来るよね」


「約束するよ。絶対だ。指切りをしよう」

「指切り?」

「指切りげんまんを知らないのか。ああ、俺の国じゃなかった。手を握って小指を出してみろ」

「うん」


 小指を絡めた。


「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。言ってみろ」

「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます」

「指切った」

「指切った。不思議な作法だね。でも何となく約束を守ってくれそう」

「そうだな。エリクサーがあっても、針千本は飲みたくない」

「ふふっ、そうだね」


 持って来たシイタケで一品作るか。

 調味料でここにあるのは前に持って来た麺つゆだけだ。


「バターあるか?」

「市場で売っていると思う」

「じゃ買うか」


 俺が店番をして、ユークスがバターを買いに行った。

 ほどなくしてバターが手に入った。

 フライパンでバターを溶かし切ったシイタケを炒める。

 最後にちょびっと麺つゆを入れて完成だ。


 口に入れるとバターの風味と塩気と、麺つゆの甘さがマッチして美味い。

 出汁も利いていて豊かな風味だ。

 噛むとキノコの汁が口の中に溢れた。


 酒が欲しいな。

 仕方ない、玉ねぎ茶で我慢するか。


 口直しに玉ねぎ茶を飲む。

 玉ねぎの薄いスープのような味が口の中を洗い流す。

 玉ねぎ茶も美味いな。


 バター炒めの味が流されて、玉ねぎ茶のほんのりした甘さが感じられた。

 バター炒めをまた食って、今度はパンを食う。

 意外にパンに合うな。


 こんな食事も良い物だ。

 ユークスの露店に来た客が、物欲しそうに俺達を見る。

 あげないぞ。

 俺達の食事だ。


「お兄さん、余ったキノコを買わない?」


 ユークスがそう声を掛けた。


「俺はキノコに目が無いんだ。街にはキノコは出ないだろ」

「そうだね。山じゃないと」

「運び込まれる量が少ないので、滅多に食えない。ありがたく全部買っていくよ」


 男はユークスの手に銀貨3枚を置いていった。

 キノコは高いんだな。

 またユークスに持って来てやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る