第38話 病院と、鍋と、死亡フラグ

「今日、心霊治療は辞めて病院を回ってもらうわ。あら、これ美味しい。何でかしら」


 朝飯のカレーを食べながら才華が言った。


「病院は何故と聞いても良いかな?」


「不起訴や起訴猶予にしない為よ。圧力を掛けるのよ。そうすれば裁判に持ち込めるわ。だいたい、法律で異世界うんぬんを裁こうとするのが間違い。真実が反映されないのなら放置すべきだわ」


 才華の言う事も分からなくもない。

 きちっと裁判するのなら、異世界の事も調べないといけない。

 だが、現状無理だ。


 俺が異世界はあるんだと言って誰が信じてくれるのだろうか。

 たぶん、裁判を冒涜しているとか言われるのだろうな。

 真実でない裁判にどんな価値があるのだろうか。


 俺は罪を償っても良い。

 確かに医療行為はうたった。

 それは罪だ。

 だが詐欺かと言われれば、患者を治している。

 それを否定するのであれば、そんな物は茶番だ。


 茶番なら茶番らしくしよう。

 堂々と嘘をつくのだ。


 エイザークとクルームに挨拶して、カボチャのツルをエイザークの所に引っ張った。

 どのぐらいの魔力が流れたかはアルカナに計測して貰おう。

 さて出かけよう。


 電車に乗って、都内の病院に到着した。

 病室に入ると、応接セットがある。

 部屋も広いし、下手なホテルのスィートルームより良いかもしれない。


 患者は馬の被り物を被ってた。

 俺は、バスタオルとショールとハンカチを掛けてやった。


 手を見るとやせ細って長くない様な気がする。

 足を見るとむくんでいた。

 俺は足をさすってやることにした。


 出張整体屋で、寝たきりの人とかが足をさすってもらうと、気持ちよさそうにするのだ。


「君の味方を本気でするつもりはなかった。しかし、足をマッサージしてもらって考えが変わった。家族すらしてくれないのに。感動したよ。被り物を脱ぎたいが、会わない方が良いだろう」


 涙ながらにそう言われた。

 情に厚い人なのだろうな。

 金持ちのようだが、家族に足すら揉んで貰えないのは、悲しいな。


 いくつも病院と病室を回ったが、どこも似たようなものだった。

 才華と喫茶店で落ち合う。


「金持ちも虚しいな。家族に相手にされないのではな」

「全部じゃないけど、お金は人を狂わせるから。はい、これ今日の治療費」


 分厚い封筒をいくつも渡された。

 1千万は超えているだろう。


「税金は高いだろうな」

「なるべく使わない方がいいわよ。ごっそり持って行かれるから」

「オークとアンデッドの食事代が掛かるんだよ」


「どうやって仕入れているの」

「召喚でやっている」

「召喚は初耳ね」

「言ってなかったか。眷属とその食料が召喚できる。ただし持ち主がいるとお金が掛かる」


「アンデッドだけど、雑草で良いのなら、牧草を召喚するべきね」

「そうするよ。近所の草刈りを率先してやってたけど、それも場所がなくなってきたところ」


「オークも飼料に切り換えたいけど、無理そうね。顔に書いてある」

「アンデッドは仕方ないとしても、意思疎通ができる存在を家畜扱いしたくないな」

「困ったわね。ダンジョン配下の食事代なんて項目は税務署に通らないわ」

「何千といると本当に食事代が馬鹿にならない」


「オークも畑をやっているのよね」

「テスト的にね」

「植物魔法ってのがあるわよね。すぐに育つ魔法がないの」

「あるかも。でも副作用があるはずなんだ。土が駄目になるとか、作物の味が不味いとか」

「やってみたら」

「そうだね」


「土の心配なら大丈夫よ。召喚すれば良いわ。価値がないというか持ち主がいない土があるでしょ」

「あるかな」

「距離が関係ないのならあるわよ」


 とりあえず食料問題も何とかなりそう。


「今日は鍋にしよう」

「暑いのに鍋?」

「うんちょっとね……」

「まあ良いわ。ビールが美味しいでしょうね」


 キャベツとねぎと豚肉と豆腐と鍋の素を入れて煮込み始めた。

 家庭菜園のキャベツは柔らかくて甘い。

 これだけは自慢できる。


 キャベツ美味し。

 ビールも美味し。

 鍋美味し。

 暑いけど。


「鍋の理由を言いかけたでしょ。あれは何だったの」

「金持ちの家族の縁が薄いのを見て、家族団らんをやってみたかった」

「それは家族が欲しいっていうリクエスト。言われなくても眷属契約するわよ」

「うん」


 違うような気もしたが、まあ良いか。

 これも家族の形だ。

 裁判が終わったら、才華にプロポーズしよう。

 やばい、死亡フラグを立ててしまったか。

 いいや構うまい。

 そのぐらいは跳ね除けられるはず。

 たぶん。

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