第37話 クルームと、才華の経歴と、カレー

 クルームの所に繋いだ。

 今日はいつもより遅い時間だ。


「どうした? その女性はなんだ」

「紹介するよ。彼女はサイカだ。一緒に住む事になった」

「初めまして、サイカです」


「クールムだ」


「クルームさん、あなた女性ですね」


 才華が日本語で爆弾を落とした。


「そうなの」

「喉仏をみれば分かります」


「エイザークも女性とか言わないよな」

「男性です。ですが、ドワーフの女性は髭が生えています」

「えー、知らなかった」


 才華がいて良かった。

 色々と教えて貰えると助かる。


「何をごちゃごちゃ喋っている」

「クルームは綺麗な女性だと言っているんだ」

「エルフは人族から見ると美人揃いらしいな」


 良かった。

 気分は害してない。


 干しシイタケと生シイタケを渡して、杭に魔法を掛けてもらう。


「やはり、素粒子ナノマシン説が正しいようですね。思考に影響を与えるのなら、化学物質か電気信号です。杭から化学物質が出ているかはこれからの調査ですが、まずないでしょう」


 そう言って才華はビニール袋に空気を入れた。

 警察は辞めたと言ってたけど、どこで検査するのだろう。大学の研究室とかだろうか。

 謎だな。


 よく考えたら、俺は才華の事を何も知らない。

 鑑識だと言っていたが、本当かどうかも分からない。

 ただ、知識が凄いのは分かる。

 企業と繋がっていても不思議はない。

 ただ、回復のタオルとか盗んでは行かない。


 信用させてからという作戦かもしれないが、そこまで人を疑いたくはない。

 処女だったし。

 ハニートラップだとすれば俺は人を信じられなくなりそうだ。

 そうなったら、異世界でしばらく過ごそう。


 異世界の人間と変な利害関係はない。

 でもちょっとだけ聞いてみるか。


「才華、経歴はどうなっている」

「普通に大学を出て研究室を転々としてから、警察官になりました」

「何で俺なの?」

「私が持ってない物を持っているからですかね」


 辻褄つじつまは合っているな。

 嘘をついているようにも思えない。

 信じてみよう。


「一通り回ったけど、どう?」

「心霊治療には行ってません」


「あれは姿隠しがないと」

「まあ、良いでしょ。タオルとハンカチは調べました。新発見は無い物と考えます」


「犯罪ロンダリング、なんだけど、何をしたらいい」

「まず来年はちゃんと確定申告して下さい。心霊治療は今年からなので間に合います」

「税金は痛いが仕方ない」


「毎日、神社の森に散歩行って下さい」

「何の為に」

「あそこに行ったという証拠を作る為です。そうすれば玄関から神社の土が検出されても誤魔化せます」

「おお、なるほど。それから」


「自首して下さい。事情聴取には素直に応じて、調書に判子を押していいですよ。たぶん警察はストーリーを持っているから、それに沿った形で質問に答えるのが良いでしょう」

「有罪になってしまうのでは」

「裁判では一転して無罪を主張するのです。あなた、ストレスで体調が悪くなるんですよね。病気という事にして、『心神耗弱で犯人になってみたかった。注目されたかった』と主張するのです。怖くなって無罪を主張したと言えば良いんです。無罪の判決が出たら、一事不再理です。有罪でも執行猶予はつくと思いますよ。その後の、心霊治療の呼びかけはマイナスイオンを浴びる会とでもして再開すると良いでしょう」


「いつから、やるんだ?」

「一週間後ぐらいが良いと思います」


 散歩に神社の森まで行く。

 わざとらしくならないように、途中の防犯カメラに映る。

 神社の森では深呼吸して空気を一杯吸い込んでから帰った。


 それから、量販店に行って掲示板に書き込む。


【朗報】心霊治療開催11【気軽に来てね】

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場所は○○神社の横手の森。時間は午後3時から、午後4時まで。

一回一万円。

痛み止めは千円。

元気が出る松ぼっくりをサービス。

※声を掛けられても驚かないように。


517

今日は遅いな


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時間帯から推測するに自営業だと見た


519

無職かもしれないぞ


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引きこもりだろう


521

心霊治療という職を持っているのに無職か

はい論破

神社まで行っているのに引きこもりか

はい論破


522

自営は論破しないのだな


 神社の森に行き、心霊治療をしてから帰った。

 才華はいない。

 夕飯は外で食べるとメールがあった。


 何を食おうか

 たまにはカレーを食うか。

 ジャガイモと玉ねぎと人参とブロック肉のありふれたカレーだ。


 普通だな。

 ルーも普通の市販のだし、普通なのは仕方ない。

 でも、ジャガイモと玉ねぎが違うんだな。

 有機肥料たっぷりで育ったジャガイモはホクホクして旨味が強い。

 玉ねぎなんか砂糖を入れたというぐらい甘い。

 そういう野菜の旨味が溶けだして、カレーを一段引き上げた味にする。


 美味いんだよ。

 どう美味いかは言えないが、野菜の旨味たっぷりのカレーなんだよ。


 余りは明日、才華に食わせてやろう。

 たぶん美味いというはずだ。

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