第34話 ミニトマトと、女の子と、シイタケの肉詰め

「おすそ分けスタンピード。右良し、左良し、確認オッケー。アンデッドはいないな」


 ユークスにミニトマトを持って来た。

 街への道は分かっている。

 問題は門をどうやって突破するかという事だ。

 足税の銅貨5枚が払えない。


 物はアイテム以外持ち込めないのか。

 本当にそうか。

 何せ前に才華が麻酔薬を持ち込んでいる。


 今回はその実験も兼ねている。

 財布をポケットに入れたのだ。

 財布はどうやら装備品として認められたようだ。

 腕時計が持ち込めていたから、おかしいと思ったら、やっぱりだ。


 その辺の線引きがどこにあるのか分からないが、意識なんだろうな。

 財布は身に着けていて不思議が無い物との認識があるのだろう。


 100均の便利グッズは、普段身に着けていたらおかしいと認識している。

 普段使う道具として、持ち歩いているなら、問題がないと思われる。


 あと持ち込めるとしたら、農具と傘辺りか。

 持ち込んでも仕方ないからやらないが。


 門の所に行った。

 拒否されたり捕まったりしないよな。


「言葉が分からない」


 才華がそう言ってICレコーダーのスイッチを押した。

 周りの音を録音するらしい。


「次!」

「二人分ね」


 俺は10円玉10枚を出した。


「むっ、どこの国の銅貨だ」

「俺の国の硬貨だ」


「異国から来たのか?」

「ああ、そうだ。不味いのか?」


「いや、両替した方が得だぞ」

「銅貨じゃ、めんどくさい」

「それもそうか。通っていいぞ」


 ふぅ、通れた。

 ユークスは市で口臭予防のナスの煮汁を売ってるはずだ。


 売っている場所はすぐに分かった。

 前と同じだからな。


「あっ、おじちゃん。それにお姉ちゃん、初めまして」

「初めまして、サイカよ」

「おいら、ユークス」


 異世界語で喋っている。

 今までの会話で初めましてを覚えたのか。


「ユークスちゃんね」


 む、ユークスは女の子なのか。

 俺は才華に小声で確認した。

 骨格が女性よと言われた。

 そんなの分かるか。

 まあいいや。

 隠しているんだよな。

 人さらい対策かも知れん。


「ミニトマトを持って来た」


 ミニトマトは真っ赤に色づいて実に美味そうだ。


「うわっ、果物だ」

「種別では野菜だけどな。フルーツトマトとかいうし、果物でも良いか。スイカなんかも果物か野菜かで迷うしな」


 ユークスと一緒に俺達はミニトマトを食った。


「酸っぱいけど美味しい。幸せ。極上の味だよ」


 品種改良されてない果物はあんまり美味くないのだろう。

 ミニトマトは美味いが、酸っぱいな。

 甘くなったらまた持って来てやろう。


「ナスの煮汁は売れているか?」

「宿に泊まれて食えるぐらいにはね。ヤーコンと玉ねぎのお茶も売れているよ。偽牛丼は定食屋に売ったよ。おいら一人じゃ手が回らないから」

「そうか。好きにすると良い」

「うん」



 他にはドクダミ茶とかあるんだけど、刈る時の匂いが嫌なので作ってない。

 お茶にすると匂いはほとんどしないと聞くが。


 柿のお茶も美味いと聞くが、枝を切らないといけないので樹が弱る。

 家には柿の木はない。

 梅なら2本植えてあるが。


 とりあえずは、しばらくはヤーコンと玉ねぎのお茶で良いだろう。


「魔法、新しく覚えたんだ。【水魔法、生水】」


 水が出た。

 才華が興味津々だ。

 質問したいが語集が少ないので控えているようだ。


「凄いな。水筒要らずだ。偉いぞ」


「まだあるよ。【水魔法、製氷】」

「お茶とか売る時に、熱いのが苦手な人には良いかもな」


「水弾と水盾も覚えたけど、使う事はないかな」

「アンデッドはあれから出たか?」

「たまにお母さんのお墓に行くけど、見ないね」


「発生率はそんなに高くないのか」

「そうみたい」

「じゃ帰るけど。今度はシイタケを持って来てやるよ」


 帰ったら才華に飯を作ろう。

 あれがあったな。

 アンデッドが毎日段ボール箱1つのシイタケを届けてくれる。

 それを使おう。

 昨日に引き続きシイタケ料理だ。


 シイタケの傘にひき肉を詰めて焼く。

 焼肉のタレを塗ったら完成だ。


「男料理ね」

「難しい物は出来ない。でも美味いだろ」

「ええ、焼肉のタレがね。私、警察を辞めたから。この家に住むわ」

「えっ、同棲するの?」

「もちろん」

「断ったら?」

「レイプされたって、訴える」

「才華の事だから証拠は押さえているのだよな」

「ええ、ばっちりよ」


 そう笑顔で返された。

 とほほ。


「そんな顔しないで。眷属の契約を更新しましょ」


 ああ、するのね。

 ごっそり、遺伝子を採取されました。

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