第30話 ねずみと、鈍刃と、素麺チャーシュー入り

 今日は晴れ。

 ドワーフとエルフの所に繋いで魔法を掛けたりしてもらうと、家では他にやる事がない。

 10時になったので量販店に掲示板の書き込みに行く。


【朗報】心霊治療開催11【気軽に来てね】

35

場所は○○神社の横手の森。時間は午前11時から、午前12時まで。

一回一万円。

痛み止めは千円。

※声を掛けられても驚かないように。


36

来たー

全裸待機してたよ


37

ウホッやらないか


38

その後36の姿を見た者はいない


39

痛み止めは何時間効くのですか?


40

>>39

前スレ漁れと言いたいが

一日だな


41

>>40

ありがとう


 今日もいつもと変わらないな。

 11時ちょっと前に神社に到着。

 車は神社に停めておくと、もろばれになる。

 その点、自転車は森の中に入れる。

 ここに来るまで、自転車は姿隠しの範囲に入っているので、ばれる事はないはずだ。


 迷いの杭を打つ。


 最初の客は高校生ぐらいで、野球のユニフォームを着ていた。

 肘を気にしている。


「肘が痛いのか?」


 俺は姿を隠したまま念話で話し掛けた。


「うわっ、びっくりした。そうだ、痛いんだ」

「医者には行ったか?」

「行ったさ。軟骨が剥がれたんだ。ねずみだよ」


 ねずみは分からないが、骨の異常なのだな。

 バスタオルの回復魔法で治すと、変なくっつき方をするかも知れないな。


 ショールのウィルス消去は炎症にはあまり効果がない。

 痛み止めして帰していいのか?

 いや、良くない。


「医者で治療をしろよ」

「手術すれば治るけど、俺はこの地方大会に賭けているんだ。もう、一生投げられなくなったって良い」


 決意は固いようだ。

 言っても止まらないだろうな。


「時間はあるか?」

「午後2時から試合」

「よし、心霊治療が終わっても、ここで少し待ってろ」

「はい」


 俺はとりあえずハンカチを使い痛みを止めてやった。

 心霊治療を終え、自転車で家まで急ぐ。

 その間も、解決策を考える。

 軟骨が剥離したと言ってたな。


 医者じゃないから取り除く方法も分からん。

 そんな魔法があるのかも分からない。

 家に着くまでに答えは出なかった。

 急いだので汗だくだ。


 ジャガイモを供え、エイザークの所に繋ぐ。


「軟骨が剥離した病気を治したい」

「急に何だ? 軟骨なぞ知らんぞ」

「骨と骨との間にあるクッションの役割をする所だ」

「物知りだな。骨は難しい。曲がったまま治る奴も珍しくない」


「時間を戻して、すべてが元通りになるようのはないのか」

「その魔法は伝説だな」


「要は剥離した軟骨が動いて傷を付けるから問題なんだ」

「ほう、それなら何とかなるかも知れん。なまくら、魔法だ。鋭刃魔法の反対だな。魔力の膜で刃物の切れ味を鈍くする」

「今日さえなんとかなれば」

「よし、魔法を掛けてやろう」


 何に掛けてもらったら良いか考えて、家で物を漁る。

 ミサンガが出て来た。

 これにしよう。


「やるぞ。【付与魔法、鈍刃】」

「ありがと、助かったよ」

「このぐらいは容易い」


 よし、急ぐぞ。

 自転車で神社に急ぐ。

 このミサンガがどれだけ効果があるか分からないが、効果があると信じよう。

 神社の森に駆け込む。

 そこには誰もいなかった。

 紙が置いてあるのに気づいた。


 『ごめん、もう行くよ。県営○○球場だから応援してほしい』と書いてある。

 くそっ、間に合わなかったか。

 いやまだ試合は終わってないはずだ。


 車でくれば良かった。

 後悔しても始まらん。

 自転車で球場を目指す。


 歓声が上がる球場に入る。

 試合は?

 あの少年は?

 関係者以外立ち入り禁止を無視して、ベンチに入る。

 ふぅ、間に合ったようだ。


「魔法の品を授けてやる」


 俺は念話で話し掛けた。


「うわっ」

「室井どうした?」


 監督がそう尋ねた。


「すいません。虫が。今日は登板なので神経質になってます」

「メンタルも大事だぞ」

「はい」


「ミサンガを結ぶから驚くなよ」

「はい」


 俺はミサンガを結んでやった。

 鈍刃がどれだけ効くか分からない。

 でも軟骨が他の組織を傷つけない事を祈る。


 俺は観客席で祈るような気持ちで試合を見た。

 試合は進み、回は9回裏、二死満塁、一打さよならの場面。


 俺は祈った。

 フラフラと内野に上がるフライ。

 あっけなく球はグラブに収まった。


 室井君だったか、彼が手術をするかどうかは分からない。

 ここは、心を鬼にすべきだな。


「おめでとう」


 俺はベンチで帰り支度している室井君に話し掛けた。


「ありがとう」

「地方大会が終わったら、肘の治療をしないと、チームが勝てなくなる呪いを掛けた」

「えっ」

「嘘だと思うなら試してみろよ。じゃあな」


 もし彼が忠告を無視するなら、魔法で試合を妨害する事も辞さない。

 そうならない事を祈っている。


 さあ、運動したし、汗もかいた。

 少し遅めの昼ごはんは、素麺にした。

 素麺を皿に盛りつけ、ミニトマトの細かく切ったのを乗せる。

 スーパーで買った錦糸卵とチャーシューを贅沢に乗せて、麺つゆを掛けた。


 腹が減っていたので貪るように食う。

 素麺のあっさりした味。

 ミニトマトの酸味。

 錦糸卵の甘味。

 チャーシューの肉の旨味。

 麺つゆの出汁。

 全てが一体となって、味を奏でた。


 ふう、素麺はいいな。

 ビールを飲んで、素麺を食う。


 暑い時はこうでないと。

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