第25話 魔力の専門家と、地球の滅亡と、ツルムラサキの醤油マヨ

 今日も朝から雨。

 涼しくていいんだが、そのせいかゴーヤがちっとも大きくならない。

 恵みの雨なんだけどね。

 作物が全部良いって事はほとんど無い

 豊作の物が1つあると、不作の物が1つある。

 こんな具合だ。


 ゴーヤは肥料が足りなかったかも知れない。

 足りなければ後からやれと思うだろうが、焦って近くに肥料を撒くと大惨事になる。


 肥料焼けを起こして、作物にダメージになるのだ。

 かと言って遠いと、肥料の効きが悪い。


 念話の魔道具を求めて、エイザークの所に行く。

 今回は実験も兼ねている。

 スーパーで買ったジャガイモで行けるか試したのだ。

 行けた。

 やっぱり精神的なものなんだな。

 これで、1年中、ドワーフとエルフの所には行ける。


 迷いの杭がないと、心霊治療が出来ない。

 エルフの所に行けないと困った事になるから、解決して良かった。


「今日は何だ?」

「念話の付与をして欲しい」

「構わないぞ。それと魔力の専門家が来ている。いま、呼んで来てやろう


 念話は腕時計に付与して貰った。

 付与が終わって雑談をしている時に、専門家らしき人が現れた。


 珍しく眼鏡を掛けている、知的美人という感じで、人間族の女性みたいだ。

 ストレートの長髪も賢そうな雰囲気だ。

 スタイルはやせ型だな。

 俺の野菜を気に入ってくれると良いのだが。


「何ですかこれは! 非常に興味深い現象です! こほん、失礼しました。わたくし、魔力研究家のアルカナと申します」

「ソウタです」


「この場所はどうなっているのですか。好奇心が抑えられません」

「準備中のダンジョンなんだよ」

「なるほど」


 アルカナは眼鏡をくいっと上げた。


「俺が心配しているのは、魔力が流出して、こっちの世界が破滅するんじゃないかという事」

「その心配は要らないようですね。魔力は漏れてません」


「それは良かった」

「サンプルに貰った大豆という豆を調べてみたのですが、魔力の塊でしたね。あんなのを土に植えたら収穫量が増えるに決まってます」

「そんな事になってたのか」


 俺は分析してもらう為に持って来た堆肥を渡した。


「素晴らしい。肥料ですか。これを撒いたら、枯れかかっていた作物も甦るに違いないですね」


 俺はミニトマトも渡した。


「これも魔力を相当含んでいます」

「食べさせたが不味かったか」

「人族は問題ないでしょう。問題はモンスターですね。たぶん強化されます」

「その違いは何? 簡単に説明してほしい」


「魔力の吸収の仕方です。人間は空気中の魔力を吸って、溜めて使用します。モンスター食べ物の魔力を吸収して使用します」

「肺で吸収か、胃で吸収かの違いか」

「そのような感じです。失礼」


 アルカナは渡されたミニトマトを食べた。


「あら、美味しい。これは? 高魔力の食べ物を食べると、微小の匂いみたいな粒子は肺に入ります。この果物を食べると人間は回復するでしょう」


 うわっ、劇薬みたいな物だな。

 でもモンスターも腹を壊したりしてないな。

 あと、聞きたい事は?


 魔道具はどうなるんだ。


「俺の世界に魔道具を持ち込んだけど、爆発したりしないよな」

「高濃度の魔力に魔道具を晒すと、魔力が自動的に充填されます。デメリットはありません」


 そうだ。

 魔道具に魔力を一回も充填してなかった。

 自動充填してたんだな。


「最後に聞きたい。俺の世界は魔力が濃くなり過ぎて破滅するのか?」

「分かりません。前例がないので。ですが、推測だけなら。おそらくどこかで限界は起きるでしょう。近々起きるまでは行かないと思います。さっきの果物の魔力濃度から計算しても1000年は大丈夫かと思われます」

「破滅は確実に起こるんだな」

「ええ」


 どうやら、俺の肩に世界の命運が乗ったようだ。

 でも、ダンジョンのせいじゃないのが分かって安心した。


 世界のガス抜きをしないといけないらしい。

 ダンジョンの入口を開けば解決するのだろうか。

 勘だけど、そんな感じはしない。

 時間はまだありそうだから、ゆっくりと考えたいな。


 ほっとしたら、腹が減ったな。

 ビールが飲みたいから一品作ろう。

 簡単なのでいいや。


 ツルムラサキの葉を茹でて叩いて刻む。

 醤油とマヨネーズと鰹節を掛けたら完成だ。


 箸でかき混ぜて摘まむ。

 口にいれるとほうれん草っぽい味がした。

 ツルムラサキは少し泥臭いのだが、マヨネーズがそれを打ち消していていい感じだ。

 ビールが進む。

 雨の日に縁側で飲むビールもまた美味い。

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