第22話 ダンジョンバトルと、痛み止めと、素麺

 ここ何日か涼しかったけれど、夏が戻ってきた。

 蒸し暑い事と言ったら、墓場に繋ごう。

 あそこはひんやりしている。

 周りに樹があって鬱蒼うっそうとしているのもだけど、冷気というかそういう物がある。

 インゲンを地蔵様に供える。

 黒い空間に繋がった。

 これは見た事がある。

 ダンジョンバトルが発動中だ。

 仕方ないので、ナスをお供えして、豚平とんぺいに会いに行く。


「ダンジョンバトルが発動した」

「いよいよ我らの出番ですな」

「敵がどんなのかは分からないけど、少し待つつもり」


「マスターの好きになさって下さい」

「聞きたいのは何がきっかけで、ダンジョンバトルが始まるのかって事」


「ダンジョンのモンスターが召喚されてくるのはご存じですよね。あと、食料もです」

「分かっている」


「召喚する時に、かち合ったり、ダンジョンの入口などが見えていると、バトルが始まります」


 墓場のアンデッドが召喚される時に、俺のダンジョンが見えてたのか。

 なるほどな。

 要は俺の縄張りに手を出すなって事ね。

 でももうバトルは始まっている。


「相手はアンデッドを召喚したと思うんだけど、敵はやっぱりアンデッド?」

「そうですな。十中八九」


 回復のタオルはあるけど、先遣隊を全滅させてもバトルは終わらないよな。

 俺から攻めれば別だけど。

 ダンジョンを開くつもりはない。

 対応は相手の出方しだいだな。


 ユークスの所に行けなくなったのは残念だ。

 今のうちに、濃縮麺つゆを沢山召喚しておこう。

 中に漬けるキュウリはスティックで良いな。

 ペットボトルにもスティックなら入る。


 キュウリも冷蔵後に備蓄しておこう。

 エルフの領域と繋いで杭に魔法を掛けてもらう。

 そして、様々な食材を召喚してから、俺は姿隠しを装備して量販店に向かった。


 店員の隙をみて、パソコンを操作する。


【朗報】心霊治療開催9【気軽に来てね】

157

場所は○○神社の横手の森。時間は午前11時から、午前12時まで。

一回一万円。

痛み止めは千円。


158

通報しますた


159

このスレ主はよく捕まらないな

痛み止めなんて完全に医療行為だろう


160

ほんとだな

やっぱり伝説の殺し屋か


161

俺の後ろに立つな


162

俺は立てて後ろを取る


163

アッー


 相変わらず、馬鹿ばっかりだな。

 昼間、匿名掲示板に張り付いている奴らだから、お察しだ。


 金を稼ぎに行ってくるか。


 千円の痛み止め目当てなのか、今日の列は長い。

 神社の駐車場まで続いてる。


 さあ、稼ぐぞ。


「歯が痛い。早く痛み止めを」


 俺は早く歯医者に行けと言いそうになった。

 声を出したら録音される危険もある。

 意思疎通の手段も必要かもな。

 テレパシーみたいな魔法がないだろうか。


 俺はハンカチを頭に掛けてやった。


「痛くない。これで仕事にいける」


 おいおい、医者行けよ。

 やっぱり言ってやりたい。


 俺はその男の背中に『はいしゃいけ』と指で書いた。


「うおっ、何だ」


 伝わってない。

 背中に書いたんじゃ駄目か。

 地面に書こうにも、硬すぎて駄目だ。

 いや、杭で書こう。

 俺は地面に大きく『ばかもん、はいしゃいけ!』と書いて男を指で突いた。


「殺し屋に説教された。俺、歯医者行くよ」


 俺は地面の文字を消した。

 疲れる患者だ。


 次は捻挫の患者だった。

 なんで1万円払って回復魔法コースを受けない。

 足首はパンパンに腫れあがっている。

 そりゃ捻挫はそのうち治るかもしれないけどさ。

 説教したい。


 接骨院は行っているのだろうか。

 こんなんばっかりだな。

 ハンカチを掛けてやったけれど。


 痛い方の足を気にせず元気に患者は歩いて去った。

 悪化するぞ馬鹿野郎と言いたい。

 こちとら、ストレスが溜まると体調に響くんだよ。


 『痛み止めは応急処置だ。医者に行けよこの野郎。それと無理すると悪化するぞ』と書いて渡したい。

 印刷物は不味いな物証が残る。

 やっぱりテレパシーか。

 テレパシーなら録音されない。


 俺は心を無にして治療をなんとかやり終えた。

 痛み止めがこんなにストレスになるとはな。

 なんか美味い物を食おう。


 暑いから、昼飯は素麺だな。

 一工夫したいが、トマトとキュウリで冷やし中華風にするか。

 お高いチーズも買って乗せるか。

 それとハムだな。

 お中元で万するような奴。

 召喚してしまえ。

 金は取られるけど、今の稼ぎなら問題ない。


 高いハムとチーズを乗せた素麺は美味かった。

 それに新鮮なキュウリとトマトも美味い。

 あー、幸せだな。

 治療のストレスが飛んで行くような気がした。

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