第5話 おすそ分けスタンピードと、天守と、フライドポテト

 異世界を歩き回りたい。

 だって、異世界だぞ。

 地球とは違うんだぞ。

 誰だって行ってみたいと思うじゃないか。


 ダンジョンを完成させるのは嫌だ。

 ダンジョンが完成されれば、壁と床が固定されて弄れなくなる設定の小説がほとんどだ。

 畑を耕したり作物を育てるのを辞めたくない。


 じゃあどうする。

 こういう時はエイザークに相談だ。


「でダンジョンから本来出せないものを、外に出す方法ってのはないのか」

「心当たりがあると言えばある」

「早く教えろ」

「スタンピードだ。モンスターの反乱だ。普段出られないはずのモンスターもだが、ラスボスであるダンジョンマスターまでもが出て来た記録がある」


 なるほど、小説にもスタンピードは書いてあったな。

 スタンピードを起こすにはどうやったら良いんだ。

 もしかして。


 ここ何日か晴れている。

 梅雨明け宣言はまだだが、ジャガイモを掘るには良い日だ。

 ジャガイモって奴は雨の次の日に掘ったりすると、腐る率が高くなる。

 すぐ食うのには問題ないが、貯蔵するんだったら、晴れが続いてから掘る方が良い。


 なんでジャガイモ堀りの話をしているかと言えば、ジャガイモを一斉に掘ってスタンピードを起こそうというわけだ。

 ジャガイモは戦利品のアイテム扱いだが、同時に生きている。

 植えれば芽が出る状態だ。


 よしスタンピードを起こすぞ。

 エイザークが見ている前でクワを振るい芋を掘る。


 ふぅ、いい汗かいた。

 段ボール箱にジャガイモを入れて。


「おすそ分けスタンピード」


 おおっ、段ボール箱が引っ張られる。

 スポンと音はしなかったが、謁見の間に出られた。


「出られたな。歓迎する、友よ」

「よろしくな。これ、おすそ分けのジャガイモ」


 段ボール箱をエイザークに預ける。


「どこに行きたい? ドワーフ王国ならどこへでも案内してやろう」

「まずはこの城からだな」


 エイザークの案内でドワーフ城を見て回る。

 まずは城の部分だ。

 城は山の上に建っている。

 登るのは物凄い疲れた。

 東京タワーを階段で上がる過酷さの何倍だろうか。

 城の天辺に出た時は眼下に広がる風景の見事さに絶句した。


「どうだ。ドワーフの城は?」

「難攻不落だな」

「城の部分が落ちても、地下が無事ならどうという事はない」


 ドワーフ城は城と言うには地上部分が少ない。

 山一つが城だ。

 重要な場所は全て地下にある。


 もうへとへとだ。

 あの距離を戻らないといけないのか。


 途中、食堂に寄る。

 ジャガイモをフライドポテトにしてエイザークと食卓を囲む。

 細切りにされたジャガイモを揚げて、塩を振っただけだが、これが美味い。


 口に入れると香ばしさが広がり、ジャガイモのうま味と塩が程よく混ざり、ハーモニーを奏でる。

 それを良く冷えたエールで洗い流すと、またフライドポテトが食いたくなる。

 永久機関の完成だ。


「油は高価だが、フライドポテトは美味いな」

「そうだろ。いくらでも食える」


「それに冷えたエール。冷えたエールがこんなに美味いなんて思わなかった。だが残念だ。ドワーフが司るのは火と土と加工だ。氷は水の上位属性。使い手がいない」

「どうやって冷やしたんだ?」


「板に氷属性を付与した。貴重な氷の魔石を消費したがその価値はある」

「国宝になったりしてな」


「そうだ。国宝認定してやろう。がははっ、もっと飲め」

「ドワーフは酒豪だよな。それに付き合っていたら身が持たない」


「人間は面白いな。驚くほど酒豪もいるが、エルフ並みの下戸もいる」

「俺は弱い方だと思う。エールだとジョッキ3杯ぐらいでもう飲めない」

「そうか。可哀想にな。ドワーフなら樽一つは飲めるぞ。今度、とっておきの火酒を出してやろう」


 さて、そろそろ帰るか。

 帰れないなんて落ちはないよな。


 エイザークが畑の境界まで見送ってくれて、すんなりとは戻れなかった。

 お土産を持っていると戻れない事が判明。


 分かればどうという事はない。

 お土産を諦めて、無事に家庭菜園へ戻れた。

 どの程度でスタンピードが起こせるのか分からないが、ジャガイモはあと2箱ある。

 そのうちキュウリでもスタンピードが起こせるだろう。


 異世界は面白かったな。

 だが、洞窟の城内は穴の大きさがドワーフ基準なので、腰をかがめて移動しないといけない。

 腰にだいぶきた。


 エルフの所はどんなだろう。

 世界樹は大きいのだろうな。

 屋久杉より大きかったりするんだろうか。

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