第4話 死葉と、獣よけと、インゲンの刺身

 今、お地蔵様にはジャガイモとキュウリを交互にお供えする事にしている。

 昨日はドワーフの所に行ったので、今日はエルフの所だ。

 やっぱり弓で狙われて囲まれた。


「総員、待機」

「はい」


 エルフ達が構えを解く。


「ソウタだったか、森の友よ」


 クルームが進み出て来た。


「この間もだけど、何か殺気立ってるな」

「ああ、ソウタの持って来た土で世界樹は持ち直したのだが、このままだと枯れてしまいなのだ。そうなれば、エルフは心の拠り所を失ってしまう」


 土はまだ上げられるけど、大木を元気にする量は無理だと思う。

 魔力の事は分からないので何とも言えないが。


「そうだ、土はあげられないけど、死葉ならあげられる」


 死葉っていうのは枯れ葉の事だ。

 これだって結構手間が掛かっている。

 秋になり葉が落ちると、軽トラックで何度も往復して集めにいく。

 家庭菜園とはいえ畑全体にすき込むには、これでも足りないぐらいだ。


 手間というのは集めるだけじゃない。

 集めたばかりの葉はフワフワしている。

 それを熟成させないといけない。


 まず、一メートルぐらいの高さの八角形の囲いを作る。

 そこに落ち葉を少し入れる。

 そうしたら水を撒いて、まんべんなく踏む。


 また落ち葉を入れる。

 水を撒いて踏むの繰り返しだ。


 フワフワの落ち葉が濡らされて踏まれ圧縮される。

 トラック1台分の落ち葉が物凄く小さく収まる。


 そして、1年間寝せておく。

 それからやっと使える。


 本当は山の落ち葉を拾ったらいけない。

 山の土が痩せるからだ。

 そこら辺は取り過ぎないように気をつけている。

 とにかく手間が掛かっている。


 うちの家庭菜園の畑は何年も死葉をすき込んだ。

 もう、一年ぐらいすき込まなくても大丈夫だと思う。

 彼等に使って貰おう。


「死葉なら肥料焼けも起こさないな。試してみる価値はありそうだ」


 肥料とか赤土の袋に死葉を詰めて渡す。

 瞬く間に袋の数が半分になった。

 これでは100袋あっても足りないな。


 確か土のう袋が10枚入りで、300円ぐらいだった。

 うがぁ、勿体ない。

 1回使うだけなのに。


「袋が足りないんだ」

「こちらから、そちらに持って行けたらいいのだが。ふうむ」


「俺のダンジョンは準備中で立ち入り禁止だからな」

「なら、空間拡張を袋に掛けてみようか」

「そんな便利な魔法があるんだ」

「ああ、魔力を沢山使うので多用は出来ないがな。では行くぞ【空間拡張】」


 おお、袋に入れても一杯にならない。

 これは良いな。


 俺が使う物にも掛けてもらうかな。

 いいや、トラブルの元だ。

 無限に物が入るような、夢のような品物があったら、奪い合いが始まるな。

 最悪、俺も消されるかも。


 やめとこう。

 死葉の輸送は終わった。


「対価は魔法がよいのだったな」

「それしか受け取れない」

「何にしたらいい」


「虫よけとかどうだろうか」

「畑で使うのなら、辞めておいた方がいいぞ」

「何でだ」

「虫には植物の成長を助けるのもいるのだ。それが来なくなってしまう」


 ああ、ミミズとか蜜蜂とか来なくなると一大事だな。

 特に蜜蜂が来ないと、植物が受粉しない。

 受粉しないと実がならない。

 よし、獣なら有益なのはいないな。

 獣よけを掛けてもらうか。


 俺は杭を家から持ってきた。


「これに獣よけを掛けられるか」

「おう、【精神魔法、獣退去】」


 これで野生動物の被害が減るな。

 そうだ。


「も、もしかして、モグラにも効いたりするの?」

「ああ、効くな」

「ひゃっほう」


 俺は喜んだ。

 モグラぐらいたちの悪いのもいない。

 あいつら、根を寸断してしまう。

 有機肥料をやらなければ良いのは分かっているが、有機の野菜は美味いからな。


「そんなに嬉しいのか」

「あいつらに何度煮え湯を飲まされたか。そうだ、祝杯を挙げよう」


 俺は茹でてあるインゲンをビールと共に冷蔵庫から取り出した。

 そして小皿にワサビをつけて、醤油を垂らした。


 クルームにもそれを渡した。


「インゲンの刺身だ。なかなか美味いぞ」


 インゲンの刺身を口に入れる。

 くぅ、美味い。

 程よい歯ごたえと、青い野菜なのに、青い臭みがほとんどない。

 さっぱりしたインゲンに醤油とワサビがマッチしてピリッとくる。

 素朴な味だが、つまみにもってこいだ。

 ビールを飲んで後味を洗い流す。


 また、インゲンの刺身を食う。

 エンドレスだ。

 いくらでも食える。

 後を引く味ではないが、飽きがこない味だ。


「ツーンと来たぞ。これは何だ。初めての味だ」

「ワサビを食った事がないのか。よし、家庭菜園でもワサビを栽培してやろう。このあいだ川で生えているのを見つけたんだ。素人だと根は大きくはならないが、土に植えてもそれなりに育つそうだ。葉を天ぷらにすると美味いぞ」


「聖域警備の楽しみが増えたな」


 俺もこの交流が楽しくなってきた。

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