第3話 太古の森と、土と、キュウリ丸かじり

 ネットでストレッチの方法を検索。

 それを適当に見繕い。

 近所のお爺さんの家に野菜のおすそ分けに行った。


「整体屋を始める事にしたんだ。今日はサービスなのでただでいい。どうだいやってみるか」

「痛い所があってね」


「いや、言わなくて良い。診察すると違法らしいから」

「そうかい」


 適当にストレッチさせて、回復のタオルを掛ける。


「おっ、良くなったよ。案外馬鹿に出来ないね」

「次頼む時は3千円だよ」

「おう、分かった」


 こんな感じで何軒か回った。

 口コミでそのうちに常連も出来るだろう。


 付与魔法がダンジョンの中に届いたって事は、攻撃魔法も届くのかな。

 攻撃魔法で攻められたら危ないな。

 エイザークはそんな事しないと思うから、試すまでもないけど。


 今日は地蔵様にキュウリをお供えした。

 あれっ、背景が森になった。

 苔むした森で、樹の幹も太い。

 太古の森という言葉が浮かんだ。


 結界に何かが当たった。

 矢だ。

 木の枝に何人もの人間が立って、弓を構えて取り囲んでいる。

 人間は全員が細身の金髪で、緑色の服を着ていた。


「聖域への侵入の罪、死罪に値する。歯向かうなら、容赦しない」

「敵意は無いんだ」

「ゆっくりとこちらへ来い」


「行けないんだ」

「何を馬鹿な事を。ええい、魔法を放て」


 せっかちな奴だな。

 魔法はやばい。

 家に逃げ込む事にした。


「【風魔法、斬】」


 振り返ってみたが何も飛んでこない。

 風だから見えないのか。


「おのれ結界など張りおって。総攻撃だ」


 全員が詠唱を始めた。

 縁側でどうなるか推移を見守る。


 何も起きないな。


「おのれ、小癪な」


 詠唱は続くが、攻撃魔法は届かない。

 害意を持ってる物は入れないらしい。

 安心して見てられる。

 しばらくして無駄を悟ったのか攻撃を辞めた。


 俺は境界まで行き。


「話し合いを要求する」

「仕方あるまい」


 一人、枝から降りてきた。

 近くに寄ると耳が長く尖っているのが分かった。


「何者だ?」

「ダンジョンメイカーのソウタだ」


「世迷い言を」

「名前はどう呼んでもらっても構わない」


「ふん、貴様なぞ、貴様で十分だ」

「お近づきの印に野菜などどうかな」

「いらん、我らは森の恵みで生きる者。貴様らの畑で作った物など食えん」


 そうかい。

 ここで怒るのも大人げない。

 習慣の違いは誰にでもある。


「欲しい物はあるかな? 贈りたい」

「貴様に用意できるものか。世界樹の眼鏡に適う土など用意できるわけがなかろう」


 土のタイプを聞かないと駄目だな。

 でも分析機はないと思うから、聞いても彼らには分からないだろう。


 俺はアルカリ土壌にした土と、酸性土壌にした土をコンビニ袋に入れた。

 そして手渡した。


 土もダンジョンのアイテム扱いなんだな。


「ふん、どうせ駄目だと思うが、試してみるか」


 畑の周りから人が消える。

 俺はキュウリを収穫して、調味料を用意した。

 しばらくして、一人やってきた。


「すまなかった。あなたを森の一員として迎え入れよう。エルフの一族はソウタの名前を忘れない。私はクルームだ」


 クルームって男だよな。

 エルフは男か女か見分けがつかない。

 中性的なんだよ。

 聞くのも失礼かも知れないので、聞かずにおこう。


「分かってくれれば良いんだよ。土が役に立って良かった」

「あんなに魔力が豊富な土など見た事がない。ダンジョンメイカーが創造神という話は、真実を含んでいるのかも知れんな」


「農家が土でもてなしたなんて外聞が悪いからキュウリを食っていってくれ」

「頂こう」

「マヨネーズをつけようと思うんだけど、どうだ」

「ふむ、玉子の匂いがするな」


 マヨネーズを見て、顔をしかめるクルーム。


「エルフはベジタリアンか。じゃ味噌だな」


 キュウリを縦に切って間にマヨネーズを挟む。

 クルームのは味噌にした。


 キュウリを差し出すとクルームは匂いを嗅いで頷いた。

 豪快にキュウリをかじる。

 シャキっとした歯ごたえ、アユにも似た匂い。

 マヨネーズの塩気とこってりとした味が、あっさりしたキュウリによく合う。

 新鮮さも相まって美味いとしか言いようがない。

 キュウリ1本を完食して。


「じゃあ、帰るから」

「ちょっと待て。お礼もせずに帰したらエルフの名折れだ」

「お礼は魔法が良いんだけど、得意な魔法ってある?」


「我らエルフは植物の成長と水と風を司っている」

「水に植物を元気にする魔法を掛けられる?」

「お安い御用だ」


 バケツに水を用意。


「さあ、やってくれ」

「【植物魔法、壮健成長】」


 魔法を掛けて貰った。

 地蔵様からキュウリを下げて日本に戻る。


 バケツの水はペットボトルに入れてマジックで植物栄養剤と書いた。

 作物の威勢が悪くなる事があるんだよ。

 大抵は気候だったり肥料だったりする。

 知ってるか? 熟成してない肥料をあげると、毒ガスが出て植物に危害を及ぼす。

 それに根に近いと、根が肥料焼けを起こして駄目になる事もある。

 そういう時にこういうのがあれば便利だ。

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