第2話 ダンジョンメイカーと、連作障害と、インゲンの天ぷら

 今日もエイザークのところにお邪魔してる。

 地蔵様にお供え物をすると飛ばされるのが分かっているから安心だ。


「昨日は急にいなくなったから心配したぞ」

「どうやったら。ダンジョンを転移させられるかが分かったんだよ。神様の御供え物が原因だった」

「ふむ、神の仕業なら致し方ない。昨日のジャガイモな。ポーション効果があるぞ」

「俺は何も感じないけど」


「ソウタはダンジョンメイカーではないかと思っとる」

「ダンジョンメイカーってなんだ?」


「詳しい事は分かっとらん。見た者がおらんのだからな。伝説ではダンジョンを創っているらしい。創造神の一面ではないかとの声もある」

「ダンジョンをね。まあいいや」


「こんな事を言うのは心苦しいのだが。今、我が国は苦境に立たされておる。麦が凶作なのだ」

「話せ、農業の事なら多少は分かる」


「原因が不明でな。段々取れ高が落ち込んだのだ」

「もしかして、同じ所に作ってるとか」

「そうだが、不味いのか」


「連作障害だな」

「どうしたら良い」

「別の作物と交互に作ると良くて、豆とかがお薦めだ。そういえば、そろそろ大豆を撒こうかと思ったんだ。種を分けてやるよ」


 大豆の種を分けてやった。


「作付けの責任者が年寄りから若い奴に変わったんだ。年寄りが伝授しなかったのだな」

「分かるよ。引継ぎしないで病気になる奴とかいるからな」

「前の責任者め。死んでいるから罰せられないが、頼むから技術を伝えてから死んでくれ。工房でもこういう事は頻繁に起こるから気にしなかったのだろうが、いい迷惑だ」


「まあまあ、ストレスは体に良くない。今日のおすそ分けはインゲンだ。天ぷらにしてみた」


 キッチンペーパーに包んでインゲンの天ぷらを渡す。

 醤油を渡そうとして出来ないのに気が付いた。

 キッチンペーパーは大丈夫なのに何でだ。


 キッチンペーパー単体も駄目みたいだな。

 野菜の付属物扱いならいけるのか。

 醤油の皿にインゲンの天ぷらを入れて渡した。

 成功。

 やっぱりな。

 付属物でないと駄目みたいだ。


 醤油の皿の天ぷらをエイザークがフォークに刺して口に運ぶ。


「うぉー、エールを持ってこい!」


 インゲンの天ぷらがお気に召したようだ。

 兵士が分けて欲しそうな目でエイザークを見る。

 天ぷらで反乱とか起きないよね。


 俺もインゲンの天ぷらをおかずに縁側で昼飯を食べる。


 サクッとした衣にほのかな青い香り。

 柔らかくて適度にある歯ごたえと、さっぱりとした後味。


 天ぷらの後にご飯をかき込む。

 ご飯に天ぷらの醤油が染みてまた美味い。

 採れたての天ぷらは、いいなぁ。


 ここはダンジョンだけど、何で他の人が入れないのかな。

 冒険者とか入れないダンジョンは聞いた事がない。


 いや、あるのか。

 小説とかだと、ダンジョンは準備期間があって、それから入口が開く。

 今は準備期間なのか。

 いつそれが終わるのだろう。


 境界に立つとエイザークがニコニコしてそばに来た。


「天ぷら美味かったぞ」

「それは良かった。今、俺のダンジョンは準備期間だと思うんだ」

「うむ、入口がないという事はそうなのかも知れぬな」

「何時終わると思う?」

「それはダンジョンが完成したらではないかな」


 ええと、畑は何をもって完成というのだろう。

 1年中、作物は変わる。

 耕したり、肥料をやったりするから土の様子も変わる。

 完成が無い様な気がした。


 終りなんてない。

 終わるのは俺が畑を辞めた時だ。

 それは絶対にしない。


 考えてみたら、このダンジョンはある意味で最強なんじゃないのか。

 入る事が出来なければ、攻略も糞もない。

 実に平和で良い。


 そうだ、異世界から何か輸入できないかな。

 だが、ダンジョンに輸入するなんて話は聞いた事が無い。

 冒険者が装備とか持ち込むけど、今はそれもない。


 金を儲けようと考えるのがさもしいのか。

 地蔵がそう言っているような気がした。

 そんなの関係ない。


 俺はリッチになるんだ。

 光はこちらに届いている。

 声もだ。

 まるっきり何も届かないって事ではない。


「エイザーク、魔法とかないのか?」

「あるぞ。ドワーフが得意なのは付与だ」


 付与か。

 攻撃魔法なんか付与されても困る。

 日本で役に立ちそうなのは、回復だな。

 でもトラブルの元になりそうだ。


 何か良い手は?

 よし。


「このタオルに回復を付与してみてくれ」

「おう【付与魔法、回復】」


 タオルが光に包まれる。

 やった成功だ。

 タオルを首に掛ける。

 心なしか体が軽いようだ。


 よし、このタオルを持って爺さん婆さんに出張マッサージするぞ。

 掛けられたタオルに回復の効果があるなんて気づかないはずだ。

 暇な時間に出来る仕事で好都合だ。

 なになに、マッサージと指圧は免許が要るのか。

 整体なら免許が要らないのか。

 なら、整体屋だな。


 ぶっちゃけ、回復のタオル掛けて、何もしなくてもいい。

 出来そうな気がした。

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