第6話 回復の魔石と、世界樹と、ポテトチップス

「毎日呼んでもらってこんな事言うのも何なんだけど。シゲさん、調子が悪いんだったら医者行きなよ。整体屋の俺が言う事でもないけどさ」

「あんたの整体を受けると、調子がいい。わしゃは病院なぞ行かん」

「頑固なんだからな」


 整体屋は繁盛している。

 だけど、医者に掛かった方が良いんじゃないかという症状の人は多い。

 タオルにもっと強力な回復の付与が掛けられれば、良いのだけど。

 付与に使う回復の魔石は数が少なくて、低級の物しか出回ってないそうだ。


 魔石はモンスターから採れる。

 回復を持っているモンスターは少ないらしい。

 タオルに使った低級のは、ヒールフロッグというカエルのモンスターの物だそうだ。

 臆病で仕留めるのが難しいらしい。

 人が近づくと湖に飛び込んでしまうので、とても厄介だとエイザークは言っていた。


 トロールが中級の回復の魔石を持っているらしいが、自動回復する上に魔法も効かない。

 物理でいくと巨人なので力負けしてしまうらしい。

 とにかく回復の魔石を持っているモンスターは厄介みたいだ。


 やってきました。

 エルフの聖域でおすそ分けスタンピード。


「ソウタどの、我らが聖域へようこそ。死葉は大変助かった」

「これ、お土産のジャガイモ。揚げてもいいし、茹でてもいい。蒸かしてもいいし、煮ものにも使える」

「では後で頂くとしよう」


 案内されたのは世界樹のふもと。

 凄いな。

 東京タワーぐらいはありそうだ。

 世界樹の名にふさわしい。


 樹は半分ほど枯れているのが分かる。


「まだ、ダメージが完全に回復してないのだな」

「これでも回復したほうだ。ほとんど枯れていたんだぞ」

「そうなんだ」

「一族を代表して改めて礼を言いたい。ほんとうにありがとう」


 エルフの村に案内された。

 家は枯れた木をくりぬいて作ってある。

 ファンタジーだな。

 魔女の家そっくりだ。


 さっそくジャガイモの料理をする事にした。

 良く分からない油を鍋で煮て、薄く切ったジャガイモを揚げる。

 いわゆるポテトチップスだ。


 ジュウジュウと音を立てて薄いジャガイモが揚がっていく。

 少し反った所がまた、ポテトチップスらしくて良い。

 塩を振って、エルフの秘伝のハーブの粉を振ったら、完成だ。

 パリパリと音を立てて口の中で砕けるポテトチップス。

 エルフのハーブはピリッと辛くて、癖になる味だ。


 クルームもポテトチップスが気に入ったみたいだ。

 手が止まらない。

 飲み物は山ぶどうのジュース。

 ほんのり甘くて酸味が効いている。


「普段、我らは芋はあまり食べないのだ」

「何で」

「森は自然にあるままが、美しいとされているからだ。土を掘り返すなど野蛮な行為だ。ドワーフにふさわしい所業だ」

「農業はしないんだな」

「するぞ。種を撒いて、植物魔法で成長させたりもする。水をやったり、虫を取ったりもする」


「前にもらった植物を元気にする水だけど、あれに魔石は必要ないのか?」

「付与の魔法と一緒にするな。汚らわしい。あれは一時的に水に魔法を帯びさせた物だ」

「一時的って言うとどのくらい持つんだ」

「1刻だな」

「うひゃあ。もったない事をした。使っちゃえば良かった」

「あれぐらいなら、何時でも言ってくれて構わない。何時でも魔法を掛けよう」


「今度使う時に頼むよ。ところで、獣除けは?」

「1日だな。うそん。毎日、更新してもらわないと」


「任せろ」


 俺には魔法知識が不足しているな。

 かと言って何日も家を空けるのは嫌だ。

 野菜が心配だし。


 ちょこちょこ来るにはおすそ分けが必要だ。

 境界越しに、授業をやってもらうのが一番かな。

 だけど、畑の世話と整体屋とでスケジュールは一杯だ。

 そんな暇はない。


 文字って読めるのかな。


「何か書いた物があるか」

「おお、それなら」


 カードみたいな物を見せられた。

 書いてある文字は読めない。

 教本を貰うのも駄目そうだ。


 クルームの態度が自慢から失望に変わった。

 俺って何か悪い事した。

 もしかして、このカードって凄いのか。


「凄いな。何が書いてあるか分からないが。きっと勲章みたいな物なんだろう」

「分かるか。Aランクの冒険者カードだ」


 これが冒険者カードか。

 不思議な機能とかあるのかな。


「このカードで何が出来るんだ?」

「本人の証明が出来るのと、口座の番号が入っている」


 免許証とキャッシュカードだな。

 AランクのカードはさしずめA級ライセンスみたいな物か。


 俺も作りたいが、持って帰れない。

 どこかに家を借りたらそこに置いておこう。


 やりたい事が増えていくな。

 明日はインゲンを地蔵様に供えてみようか。

 人間の街に繋がるといいな。

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