一章 傲慢王女は帰りたくない⑤
「リュ、リューク……。なんでここに?」
「ご自分がどれだけ目立つ容姿なのか自覚がないのですか? 街で、あれは
(……で、この
わたしは悪者ではないと、いじめをしてまわっているという
今のわたしは完全に、地元の農民をいじめる
「ご当主様、よくぞ止めて下さいました!
(ああ! 確かにその通りなんだけど!)
ご
(……お、終わった……!)
暗雲を背負っているわたしをよそに彼は農民に向きなおった。
「ハンス・ベイル
……うん?
「今、男爵って言った?」
この辺りを管理する、大農家のベイル男爵家。
「ユスティネ……王女
「あなたこそ貴族なの?
お
「思うに、ユスティネ王女は貴方に怒って欲しかったのだと思う」
「え?」
「王女は貴方の仕事をいたく気に入ったようだ。その期待に
「ええ!?」
農民……ではなくハンスは再び驚いた。
いや、驚いたのはわたしも同様だった。
「い、今の行動が、どこをどうやったらそういう
「そうですよ! ユスティネ様はやっぱり噂通りの
アンまで
しかし残念ながらこれが
リュークは少し考えてから口を開いた。
「……王女が捨てようとした時に感じた気持ちと同じものを、貴方が価値あるものを買い
「えっ……!」
「
その場がしんと静まった。
アンとハンスは思いもよらなかったわたしの行動の裏にある気持ちを知って。
そしてわたしは、リュークが自分の気持ちを言い当てたことに驚いて
(一方的に怒られるかと思ったのに……)
安心すると共に、
「ユ、ユスティネ様。あの、あたしその……誤解を……」
アンが何かを言いかけるが、結局もごもごと
「い、いえ。なんでもないです」
「?」
アンの様子は気になるが、それよりも今はせっかく会えたリュークだ。
ハンスといくつか言葉を
「リューク、ちょっと待ってよ! 話があるの」
彼は
「こんな場所まで来て頂いてすみませんが、今は本当に無理です。帰り道はよく慣れた者を一人お貸ししますから、気をつけてお帰り下さい」
言葉通り、丁度向こうから
話す事などないとでもいうような背中に思わず
「リューク! そんなにわたしに王都に帰って欲しいの!?」
「ええ。一日でも早くバルテリンクから立ち去って頂けるよう願っています」
これは、本当に無理かもしれない。
さすがのわたしも、そう思わずにはいられなかった。
帰りの馬車で黙り込んでいると、アンがあれこれ話しかけてくれたがそれどころではなかった。
(こうなったら仕方ない。何か
気分を変えたくて馬車の小窓を開けると、馬で
「いやあ、リューク様のエスコートではなく申し訳ありません! 最近は
「それにしても、あんなに慌てたリューク様は初めて見ましたよ。この街にユスティネ王女殿下らしき人物が現れたと聞いて、あっという間に先に行っちまいましたからね。いやあ、若いってのはいいもんですな」
「………なんですって?」
おかしな報告を聞いて、そういえばと思い返す。
(よく考えたら、なんで市場から出てあんなところまで来たのかしら。わたしに会いに……はないとして、何かしでかしてないか
「なんでなのかしら」
思わず口に出していた。
それを聞きつけた騎士は大声で笑った。
「そりゃあ王女殿下が心配だったからに決まってますよ。急に王女殿下が予定にない事をなさったから何かあったのかと気をもんだのでしょう」
(……心配? リュークがわたしを?)
そんな事があり得るだろうか。
しかし今思えば、
その夜、わたしはとても思い
結局何一つ問題が解決していない。
それに……。
(結局リュークはわたしを追い返したいの? そんなに
やがて時間が
(無愛想で、冷たくて、何を考えてるか全然分からない。どうせなら
一度だけなら、会う方法はある。
前世であまりにも
ただ正直、わりと好き放題やっているわたしでもどうかと思う方法なので
(ええい、どうせ分からないなら、いっそこれ以上ないほどドン底まで嫌われてスッキリした方がずっとマシよ。最後に言いたい事全部言ってやろうじゃないの)
そう腹を決めるとにんまり笑った。
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