第6話 カチコミ

 「いい返事だなコウタ」

 「あ…」


 麻生まおうは何の気もなしに返事をしたことに気づいた。


 何をさせられるかも分からず返事をしたことに後悔の念が湧き上がる。


 「あそこに建物があるだろう」


 小・羅刹シャオ・ラセツは通りある建物を指差す。


 それは何の変哲もない三階建てのビル。


 「あそこが何だって言うんですか…」


 普通のビルを訝しげにマジマジと見つめる麻生まおう


 注視しているとあることに気づいた。


 汗が滝のように流れ出す。


 「心なしか、あのビルには監視カメラが多いような…」

 「監視カメラ??何だそれは」

 「いえ、あの丸っこい」

 「あれが何だって言うんだ?」

 「あーゆーのがあるところって反社会的な人たちがいるところかなーって…」


 一瞬、静かな間が置かれる。


 「おー!分かるのかコウタ。ワタシが見たところ悪い気配を放つ者が多くいるぞ」


 麻生まおうは予想が当たったことに肩を落とした。


 どうやら、これから自分が反社会的な人たちの巣窟に行かされることを悟ったようだ。


 いわゆるカチコミである。


 「さあ!行くぞ」


 小・羅刹シャオ・ラセツ麻生まおうの首根っこを掴んでひょいとつまみ上げた。


 有無を言わさず連れていかれてしまう。


 「東海…江藤會えとうかい


 ビルの看板にそう書かれている。


 明らかに暴力団の事務所である。


 麻生まおうはそれを読み上げると踵を返して帰ろうとする。


 だが首根っこを掴まれておりシャツが首に食い込み苦しいだけだった。


 「何故逃げる?」

 「何でってカチコミなんかしたら殺されるからですよ」

 「殺される?笑わせるな依り代とはいえ父上の魂を享受した身。人に殺せるわけないだろう」

 

 自信満々にそう語る小・羅刹シャオ・ラセツ


 麻生まおうはそう言われると妖魔の力を得た今の自分ならば人間に負けないのかもと思えた。


 しかし、怖いものは怖い。


 麻生まおうが踏ん切りがつかず、もたついていると小・羅刹シャオ・ラセツは扉の前にいた。


 「さて…」


 と言って何も無いところから突然現れたのはとても大きな芭蕉ばしょう葉鞘ようしょう


 「あれは西遊記に出てくる芭蕉扇ばしょうせん…」

 「ほぅ…この時代にも伝わっているのか。我が母上の武器、芭蕉扇ばしょうせん

 「有名ですよ」

 「そうか…ういなことだ」


 嬉しそうに答えた小・羅刹シャオ・ラセツ


 そして次に手の芭蕉扇を大きく振りかぶった。


 その動作を見て麻生まおうは嫌な予感が走った。


 「ちょっと待っ――!」


 芭蕉扇は振り降された。


 ゴゥッ!!!


 轟音とともに突風が吹き荒れて目の前の扉は見事に破壊された。


 「あぁ、なんてことを…」


 麻生まおう小・羅刹シャオ・ラセツの破茶滅茶な行為に開いた口が塞がらなかった。



―――しかし、小・羅刹シャオ・ラセツは気分が高揚しているのか歯が剥き出しになるくらい笑っている。


 「行くぞコウタ。カチコミだ」

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