第11話元女王との面会

 アリアのお腹が大きくなってきた頃、今までいた外大陸に貿易都市を作り、竜戦士の駐屯基地が出来て、獣人の職人を送り蒸気船で大国との貿易が開始されるようになった。学園長に手紙を送り、元テファリーザ王国時代の古城に『ハザン商会』の本部を置くことになったことを告げる。元王国の実情は豊かな農地を農機車で耕し、広大な穀物畑や、野菜、煙草など嗜好品も栽培することになって、食糧事情は随分改善された。不良騎士団も一新され、竜戦士や現地の労役をしていた男性、大国の貴族の家督かとくが継げない男子に騎士身分を与えて、治安に貢献させていた。メイドも大量に雇い商売に不都合がないように安定的に仕事が回っていた。そちらは副責任者であるセイラに任せて合った。カイルも四輪車の改装を担当して目を輝かせて技術改善に入れ込んでいた。セイラとの婚姻も近いようだった。学園長の孫娘の結婚式には是非呼んでくれと手紙に書いてあった。腸が煮える思いだろう。

 僕は『ハザン商会』の代表として毎日書類仕事をこなし、アリアとの時間は主に生まれてくる子供に対してどう教育するか話し合っていた。元国民の評判は絶え間なく上がり続け、独立運動の機運も影で容認して、援助していた。村長達も集まり元のテファリーザ王国の時代に戻りつつあるようだと思い込んでいた。自分の引いた路線から外れず、上手く車輪がレールに噛みあっている感じだった。蒸気機関車計画も労働者と技術者を集めて、小国ならではの身の軽さで路線図も僕の部屋の壁に書き込まれていた。鉄道のレールの敷設も順調に進んでいた。蒸気機関車自体はテストモデルが出来て実験が両大国より早く始まっていた。


 両大国の貴族達の使節団が訪れ、石炭ではなく魔法薬の試薬品を燃料とした電気式の汽車が車両工場で造り上げられていた。最新式の汽車ハイブリット式ディーゼル車に近い物が出来上がっていた。内燃機関と蓄電池などエネルギーを貯蔵する機構の物がテストケースとして演習場を走っていた。簡単に技術者が説明をして実際に貨車や客車を見学して、次代の乗り物を見学していった。積載量からいって元王国の国民や物資を十分に運べた。元国民はこの車に未来の明るい王国のきざしを見ていた。両大国側から見れば、古い蒸気機関など悔しいばかりである。四輪車も蒸気船も改良が加えられ新しい波がすぐそこまで来ていた。レイド監督官など熱心に、大国にもこの技術を提供できるように準備をして国王に取り計らいを進言していた。僕達の『ハザン商会』の評判は両大陸どころか、外大陸まで浸透しようとしていた。

「ねえ、あなた、カイルもセイラも結婚するし、私も子供を産むわ。もっと人を雇いたいの、どうかしら?」

「古城の『ハザン商会』のメイドは三万いるよ。職人は五万いるし、直属の兵士は二万いる。貿易都市に人が集まりだしているし、外大陸でも小国クラスある勢力を認めつつある。両大国でも『ハザン商会』の支店にこの国から人を派遣する計画も立ててある。心配せずともアリアは子供を産むことだけを考えていればいいよ。そうだな、もう十万ほど大国に派遣できる人材を育てたいな。子供達の教育機関も設立したいし、いい案かも知れないね」


「そうね、最初はこんなに影響力が大きくなるなんて考えもしなかったけど、私、あなたの子を産めるなんて幸せだわ。カイルもセイラの結婚式も盛大にやるわよね。二人の気持ちが固まってくれて、カイルのプロポーズが上手くいったから良かったけど、学園長も内心嬉しいわね、私も動けなくなるし、子供を産んでから結婚式を挙げて欲しいわ。私も祝福したいから」

「今度カイル達に聞いてみるよ、アイクルとシズ、アリアをよく見てやってくれ、仕事に戻るよ、少し人と会う約束をしている、それと子供の名前は決めていいのかい、アリアの意見も聞きたいけど不満じゃないかな?」

「いいえ、あなたがつけた名前がいいの、ハザン。男の子と女の子だったわよね。私産むわ。名前の候補は決めてあるの?」

「そうだな、男の子ならクリス、女の子ならマリア、なんてどう?」

「いい名前で御座いますね、旦那様、二人無事に生まれてくるといいですね」

「私もいい名前だと思います。私が取り上げるので安心していいですよ、奥様」

 アイクルとシズが合わせたように話す。

「少し人と会ってくるよ。君は十分休んでくれ、子供達のために」

「わかったわ、早く戻って来てね、庭園でお茶を飲みながら待っているわ」

 アリアは頬にキスをして十分満足そうにお腹を抱えて部屋を出て行く、シズ達メイドがその先導をして体を労わりながら女同士よく話していた。


「アイクル、母親の件はどうなっている?」注意深く聞いていく。

「はい、ハザン様、親戚の家に隠されて過ごされています。健康に問題ありません。お会いになりますか?」

「ああ、そろそろ、いいだろう。父親から話を聞いているはずだ。顔を見せればすぐ自分の子供とわかるだろう。緊張するけど、否定はされないはずだよ」

「それとなく身辺を知らせてあります。今日お客様が会いに来る予定は入っております。ご安心ください、私共が全力でお守りします」

「助かるよ、アイクル、それじゃあ、親戚の家に行こうか、母親の好きな花束を持って」

「はい、お供します。カイル様とセイラ様にはまだ話されないのですね。表に四輪車があるので兵士長ガダンも待たせております。どうぞこちらへ」

 外に出て四輪車に乗って、元王国の女王の親戚の邸宅まで走る。ずっと脳裏に焼き付いていた本人と会うのだ、今度は気絶されないだろうが、きっと凄く驚くだろう。邸宅の家に止まり、周りを兵士長達が警備で固める。中の応接間に進むと、少し待つことになった。アイクルが母親を連れてくる。一目見ると自分とそっくりな顔つきをしているとわかる。

「あなた、息子よ、生きていたのね、私が生かされているのが不思議なくらい国が混乱していたけど、あの激動の波を生き抜いて私に会いに来てくれた」


「お母さん、僕は呪われ子だ。お父さんは僕を守るために命すら代償にした。お父さんの記憶や経験値は全て僕の中にある。お母さんへの愛情すら僕には全てわかる。良く生きていてくれたね、お母さん、僕は嬉しいよ」

「私も、息子、お父さんから聞いていたけど、テファリーザ王国の伝統は息子に受け継がれたのね、よく外大陸から生きて戻ったわ。奇跡を見ているよう、この花束もお父さんがよく私に送ってくれたわ、紫の薔薇の花束、花言葉は「尊敬」「誇り」「気品」お父さんらしいわ。小国をかじ取りしていたころが懐かしい、もう十五年経つけど、今はハザンと名乗っているのね、猟師の男に名づけられたの、リーザライトよりはいいわね。もういいわ、あなたにはやることがあるのでしょう。お嫁さんももらっているのよね、子供も生まれるの、正直そっちに行きたいけど、まだ行けないわ。いつか戻れる時が来たらあなたの子を抱きたいわね」

 涙を流す元女王。抱きしめ合う親子にわだかまりなどもうなかった。

「今日はお母さんに会えて嬉しかったよ。生まれてくる子供を見せる時が来る、その間辛抱して待っていて下さい。次に会う時は、この国が生まれ変わる時だよ、僕が国王になってテファリーザ王国の復国を果たす。本国の技術を使って必ずやり遂げる。お母さんはテファリーザ王国の真実をまだ知らないね。その時は来る。アリアと迎えに来るから、心配せずに待っていてください」

―――いいわね、あなたはあなたの道を歩いている」


「お母さん、次会ったときに聞くよ、それまで体を大事に。ここは安全だから」

 再び抱きしめる母親に言葉もいらず、温もりさえ感じる。

「私の息子、生きていてくれただけでも嬉しいわ。また会う時は子供の顔と事情を聞かせてね」元女王は部屋を出て行き、奥の間に消えて行った。

「さあ、アリア様の所に帰りましょう、ハザン様」

「ああ、今頃涙が出て来た、母親と会えて良かったよ、生きていてくれて嬉しい。さあ仕事に戻ろうか、この場所の会話は内密にしてくれ、今は時期じゃない」

「はい、もちろんでございます。警備も隠れて守っていました。テファリーザ王国の復国は成し遂げなければならないもの、ハザン様なら必ずやり遂げるでしょう。お茶の時間が空いています。城に戻りましょう」

「アリアも元気な子供を産んでくれるといいな、僕の記憶と経験値を合わせた、愛しい子供達を、テファリーザ王国の財産を受け継ぐよ、待っていておくれ、すぐ会えるから」

 邸宅の外に出て四輪車に乗る。アイクルが運転しながら、古城に戻る。その様子を母親はじっと見つめていた。

「私の失われたはずの息子を良く返してくれたわね、あなた……」

 紫の薔薇の花束があの日の情景をはっきりと浮かび上がらせていた。呪われ子として生まれたあの子に運命をも打ち勝つはずよと思いをはせていた。

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