第12話生まれてくる子供達

 アリアの陣痛が規則的なり、破水が起きるとお産が始まった。僕とカイルは部屋の外にいてぐるぐる同じところを回っている。シズ達メイドが子供を取り上げている頃だ。セイラも心配そうに二人を見ている。黒いまなこは生まれてきた直後に瞼に魔法薬を塗り込んでいる。アリアが見ることはない、心配いらないはずだ。元気な赤ん坊の声が聞こえ、部屋に入る許可を得ると、寝室にアリアと二人の赤ん坊が傍に寄り添っている。アリアは誇らしげに赤ん坊を抱いて、報告する。

「あなた、男の子と女の子の双子よ、私必ず産むって言ったでしょう。あなたにも私にもよく似ているわ、名前はクリスとマリアね、よろしく、お母さんですよ」

「いや、男としては何もできず悔しい限りだが、お目出たいことだよ。良く産んでくれたね、アリア、ご苦労様。ああ、僕が父親だとわかるね、小さな指だ、可愛いね」

「まあ、ハザンもこういうところがあるのね、アリアおめでとう、私達の結婚式も挙げるからそれまで休んでいてね、カイル私もあなたの子を産むわ、あんな素敵なプロポーズをしてくれたもの、お爺様も両親もこちらにやって来るから、よろしくお願いね」

「僕の両親も弟や妹も来るはずだよ、騎士団長の訓練から四輪車の改良までまだまだだけど、君を幸せにするよ、セイラ。一目ぼれだしね」

「ふうん、やっぱり好きだったのね、カイル、恋が実ってよかったわ。私達も幸せだし、授乳させないと、やっぱり可愛い私の赤ちゃん達、シズ栄養のある食事を頂戴ね、ハザンと一緒に育てるわ、呪われた土地なんかに負けない子になるわ」

「奥様、ゆっくり休まれてください。メイド一同クリス様とマリア様に末永くお仕えします」

「私も執事として、誇らしいです。カイル様とセイラ様の結婚式は、後日執り行う準備を始めておきます。セイラ様カイル様とぜひご一緒にドレスをお選びください。色々な品を取り揃えております」アイクルが結婚式の日取りと日程を話し始める。


「ハザン様、やはり適正者でした、黒いまなこは確認しました。意思もすでにお持ちの様です。念話で会話できるので話されたらいかがでしょうか?」シズが耳に言葉を吹き込む。

「やあ、テファリーザ王国の財産である双子の子らよ、お父さんの記憶も経験値も持っているね、これから怪しまれず普通の子供として振舞え。クリスとマリア、お母さんに迷惑をかけるなよ、お父さんは仕事がある、テファリーザ王国の復活だ、後を継いでもらうぞ、子供達、カイルとセイラの子供とも仲良くしなさい」

「はい、お父さん、僕も生まれて来て嬉しいよ、ねえマリア」

「お兄ちゃん、私も嬉しいです。お父さん、これからよろしくお願いします」

 可愛い声で返してくる我が子達を見ると愛おしくなる。

「今日はお祝いだな、古城から酒を振舞ってくれ、元テファリーザ王国の住民に感謝したい。これまでよく働いてくれたからね、今日くらいは休みにしよう」

 アリアと一緒に赤ん坊を抱いて幸せそうにしていると、これからの計画が平気な物に思えてくる。外大陸の貿易都市は発展を続け、両大国に大量の物資を届けている、また幾つか拠点を作り、増やしていた。外大陸からの労働者も大国や元王国に派遣されて働いている。鉄道の敷設工事や建築物の工事、新しい四輪車の工場、自然と共存した流れをくむ元テファリーザ王国の技術に感化されつつ、外大陸の文化の流入も始まっていた。


 珍しい食物、新しい技術、新しい人種など、テファリーザ王国の本国に研究開発を命じている。人造人間の研究も急激に進み、全く新しい人種として未開発のアーキタイプの存在も確認されている。強化種など特異な異種人も生まれつつある。人外の人間の研究に国を捧げて来た代々の当主達の研鑽は膨大で、巨人型の機械ギガントも生産されつつあった。四輪車に砲塔をつけた戦車の開発や、飛行用の戦闘機など以前からある技術も進み始めていた。

 その後を継ぐのはクリスとマリアで十分な資質を生まれた時から備え持っていた。日に日に育つ我が子を見てそれは確信に変わり、笑みがこぼれ落ちるようになった。

 アリアが勉強を教えて、我が子を大切にしているのは愛おしかったし、自分でも教えるべきことは、念話でも早期に教育していた。アイクルやシズ達、ガダン達に身の回りの稽古を受けながら、成長していった。

 一年後、カイルとセイラの結婚式は国家規模で取り行われ、両大国の貴族達も参加して、華やかに執り行われた。両親も学園長も泣いていたが、レイド監督官やエリザ監督官はこの結婚式を通じて、資金や技術の流れを自国に持って行く準備を進めていた。アイクル達が全て把握して流出して良い物は選び抜いていた。無事結婚式も済んで大国の貴族とも親交を結び、新興の技術開発に『ハザン商会』は出資して結びつきを強くしていった。独立運動の兆しも大きくなるにつれて、僕との結びつきは表向き伏せられた状態だった。『ハザン商会』の手によって元テファリーザ王国の鉄道計画は順調に整備されて行った。


 二年後両大国に先駆けて鉄道は本格的に開始され、国内の物資や物流、人の流れなど新しい列車で生まれた流れは爆発的に元王国の生活を変えて行った。労役に苦しんでいた時代などどこに会ったかと、自由を国民は謳歌おうかしていた。『ハザン商会』の元で平和な暮らしを取り戻し始めた。両大国は面白くないものの、独立運動の活動は表向き抑えられ、税収も良く伸びている。文句のぶつける所がなかった。代表として講演に立つことも多くなり、元国民と話し合うことも多くなった。十八年前の分断の歴史を残そうと活動する運動家も現れた。

 僕達家族は庭園でお茶を飲み、カイルとセイラの男の子、カイトを抱き上げるカイルとセイラと一緒に今後について話し合っていた。

「これから、両大国との関係を考える上で、元国民の処遇を決めるべきだと思う」

「ハザン、確かにそれは考えられる。しかし、この地方は両大国に分割されていて正式には大国の領土になっている。それは幾ら何でも変えられないよ」

「前にも言ったけど最終的には自分達の国を興そうと話をしていたね、実質この国の住民は『ハザン商会』の関係者になっている。国ごと買い取れればいいのだけれど、そう簡単にはいかないようだね。大国も成長したこの国に眼をつけている」

「ハザン、私はこの国の住民は幸せでも祖国が懐かしいのではないかしら、だから、あなたに期待する面も大きくなるわ。講演の集まりを見ると国を取り戻す議論が溢れているわ、それを実現するのはハザンしかいないと思うのよ。外大陸で始めた商売が全域に広がり始めている。国を興すのはいいわ、責任は取らなくてはいけないわよ」セイラ考え深く思考に沈んでいる。

「お父さん、新しい国を興すの?」クリスが聞いてくる。

「お兄ちゃん、お父さんは元テファリーザ王国の住民の為を考えているのよ」

 マリアが理性的にそれに答える。三歳児ではっきり自分の意見を喋っている。

「ハザンとアリアの子は頭がいいわね、三歳児なのに大人びているわ」

「セイラ、ハザンとアリアの子は特別だよ。カイトも絵を書くのが好きだよねー」

「もう、カイル、愛情が過ぎるわよ、少しはクリスとマリアを見習いなさい、カイト」

 黙々とクレヨンで画用紙に絵を書いているカイト。

「芸術家向きみたいだね、我が子は」

「クリスとマリアが遊んでくれて助かるわ、成長の良い手本になるもの。マリアが世話してくれているお姉さんみたいね」思わず口から笑みがこぼれるセイラ。

「ハザン、今の内婚約して置こうか、マリアならしっかり者だから、親としても安心だよ」

「それはいいわね、でも本人の自由よ、カイトも将来何になるかわからないから」


「僕は騎士団長か開発者だと思うよ、両親の血を受け継いでいるからね。カイルとセイラはどうカイトを育てるつもりなんだい?」

「僕は車の後継者にしたい。まだまだ研究開発が必要だからね」

「あら、私も賛成だわ、内向的なのが私の小さい頃そっくりだもの」

「僕は元テファリーザ王国の大統領になる」

「私は補佐官になる」クリスとマリアが言い始める。

「あらあら、あなた達お父さんの後を継がなければいけないのよ。それまで勉強はしっかりしましょうね」アリアも幸せそうに我が子達の頭を撫ででいる。

「うちの子達は優秀だよ、元テファリーザ王国の国民の独立運動には気をつけておいたほうがいいね。『ハザン商会』からもできることはやろう」

「そうね、せっかく立ち上がった国民ですもの、幸せな方向に転ぶといいわね」

 アリアが二人の子を抱きしめて笑い合う。

「一からやり直せるかしら、正当な後継者が生きていれば問題ないのだけど」

「元女王がかくまわれているという噂は聞いたことがある。子供は呪われ子として生死不明だね。もう十八歳になるかな、現れたら現実味を帯びてくるのに生きてさえいれば」

「そこら辺は調査してみよう。何かわかるかもしれない、時間をかけよう」

 僕は話題を閉じるかのようにお茶を飲んで、クリスとマリアの頭を撫でていた。

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