第10話レイド監督官

「困りますね、ハザン殿大国の騎士団長を手にかけたばかりか、この呪われた土地で蒸気機関車計画など通すなど、勝手が過ぎますよ」その大国の青年の貴族は自分の意見を冷静に述べていた。大国から派遣されてきたまだ若い有能な監督官かんとくかんだった。

 僕達は元テファリーザ王国時代の古城に部屋を借りて、そこで商談していた。包帯を巻いたあの不良騎士団長もいる。要するに圧力をこの国に『ハザン商会』にかけてきたのだ。兵士は順調に入れ替わり、農村の穀物も期待されるようになり、職人のお陰で農作業機械車も実現できそうだ。シズがお茶を運んできて静かに置いていく。アリアも傍に立っていた。カイルもセイラも騎士団長として同席している。アイクルも執事として傍にいる。


「しかも本国は元王国の古城を扱う許可を出すなど信じられません。どういう説明をされたか知りませんが、独立運動の機運があるなど、大国の法では認められておりません。この領土は征服され、併呑へいどんされ両国の一地方になっております。わが大国側はこの騎士団長の職を復権して元の職に就かせることを望んでいます。お分かりですか?」

 まだ若い貴族は手を組み合わせて説得するように話す。

「しかしレイド殿その騎士団長は元国民に圧制を敷き、己の職務を放棄して遊び暮らしていました。大国側の都合なら元テファリーザ王国の国民を助け、有効に働いてもらい、高すぎる税率を下げ、豊かな大地で食料を生産させて、独立運動の機運を少しでも下げるのが定法かと思います。いらぬ反感を買い若い女を侍らせ、税をごまかして自分の懐に入れ、カードゲームに興じているなど、言語道断だと思います」

 

 元騎士団長が怒りの形相で立ち上がる。それを手で押さえて、まだ若い監督官は話す。

「それは調べがついているのですか?住民の被害はどの程度なのです?」

「ここでお話するような内容ではありません。良ければ近くに耳を貸してください」

 青年の耳に言葉を吹き込む。「それはひどいですね、女子供までそこまで被害に、こちらの調査不足でした。お許しください。それは本国に戻ってから報告します。ヒドラ元騎士団長君の話していた内容とは違うようだが、本国に強制送還させてもらおう」

 竜兵士がヒドラ元騎士団長を拘束する。「話が違いますぜ、レイド殿、そいつは一方的に俺達を叩きのめして砦の物資を勝手に奪っていった!!」どうやら、監督官に泣きついたらしい。

「残念だが犯罪行為に手を染めるのは大国でも違法だ。処分は受けてもらうぞ」

 元騎士団長はがっくりうなだれて外に連れて行かれる。

「失礼しました。こちらの非礼をお詫びします。ふむ『ハザン商会』でこの土地に蒸気機関車計画を立てているのですね。わが大国でも実現可能か実験中です。もちろん東側の大国でも計画が進んでいます。その若さで四輪車を開発したハザン殿には驚きですが、農作業機械車まで、今度も友好な関係を築いていきたいものです。蒸気機関車計画でも技術の提携を結びたいくらいです。返事は大国の国王と話して見ます。東側の使者は来ていますか?『ハザン商会』の出資者は両大国の貴族まで浸透しています」


「西側の大国からレイド殿が東の大国からエリザ殿が監督官として訪問されています。エリザ殿とは話がもう済んであり、男性の労役を免除する確約を貰っています」

「それは!!!西側の大国としても検討して見ます。大国では四輪車が当たり前のように走り、蒸気船が造られ、薬草薬が出回り村々で慈善事業兼販路拡大路線が広まっております。貧しい子供達も生き生きとしています。そして蒸気機関車計画が実現するとまた大国の富は膨れ上がるでしょう。この元王国の技術は素晴らしい物だったのですが、ハザン殿には見劣りしますね。本国に戻り検討しましょう。これからもよろしくお願いします」

 しっかりと握手して席を立ちコートと帽子を被って退席する。


「男性の労役まで手放すとは、東の大国もよっぽどハザン殿の関心を買いたいらしい。元々食い尽くされていた国に有効な方法を取り入れるハザン殿が上手なのだろう。両大国は技術を取り込んで変わっていく。あの十五歳の少年の手の平という訳か、面白い、最後まで賭けに乗ろうじゃないか、東側の大国の監督官、エリザ殿との面会をしなければ、東側の意向も動静も把握しておきたい。本国に一時帰国するぞ、面会の準備をしろ。エリザ殿と歩調を合わせる必要がある。国王に報告だ」

 古城の通路を歩きながら部下に指示していく。両脇にメイドが頭を下げて道を開ける。

 僕達は話し合い、仕事に戻っていく。

「あのヒドラ元騎士団長の圧制はなくなったけど、これからもこの国に両国の貴族は干渉して来るわよ。エリザ殿が話せる相手で良かったけど、独立運動の機運は厄介ね」

「いい方向ではないかと僕は思っているよ。セイラ、それだけ国民が立ち直ったということだから、最終的には『ハザン商会』の本部にしようかと思う。両大国の中心に位置しているからね、本当の最後には自分たちで国が興せたらと思っているよ。元テファリーザ王国ののろわれた土地だけど、これだけ優秀な人材が集まってくれたのだからね。実現するかもしれないよ、何年も辛抱強く待つつもりだ」

「いいわね、私達の国なんて、ハザン人気があるから、実現可能かもしれないわよ!!」

 アリアは嬉しそうに叫ぶ。カイルはため息をついて「そんなに簡単じゃないさ、地道に独立運動をやって両大国が認めるかどうかも分からない。国民が本当に支配から逃れたがっているのを利用して居座るのも悪いことじゃないか」

「案外間違っていないのかもしれないわね、『ハザン商会』はもっと大きくなって影響力を持つようになる。少なくとも不良騎士団にしいたげられているのは間違いだし、ハザン政治家になってみる?私達は応援するわよ」セイラが考えを頭でまとめている。


「いや、まだまだこれからだよ、治安も良くしていかないといけないからね、人手は男性の労役が免除されたから、簡単な警護団を作るつもりだよ。義務化して行けばいいと思う。子供達に学校と病院施設、公共施設なんかも建設していきたいね。復興策だけど、税率の軽減策もやっていきたいし、元々真面目な国民性だから不可能じゃないと思うよ」

 シズが耳元でレイドが話していたことを報告する。

「そうか、レイド殿はどう動くのかな?賭けに乗ってくれればいいのだけど」

「そうね、エリザ殿も貴族で必要な物をこの国で生産させたがっていたし、ハザンの新種の農作物ならできるかも知れないわね」セイラは書類を見ている。

「とにかく、僕は仕事に戻るよ、ハザン。農機車のうきしゃと名づけたけど実験段階だ、この小国だった土地くらい簡単に耕せるよ。両大国からも発注がきているから、蒸気機関車が出来れば勢力的に便利になるよ」カイルは部屋から出て行った。

「私も仕事に戻るわ、大国の貴族の要望書が来ているから目を通して置く」

 セイラも出て行って、アリアと一緒に元テファリーザ王国の土地を見に行くことにした。

 隅々まで知らないことはないが、ため池や造成地に労働者を集めて、技術者の指導の下建設や工事をしていくつもりだ。アイクルとシズも一緒に来て、理想図を語っていく。

「ハザン様、計画通り不良騎士団を追い立てています。近くまで来ていますので、捕縛しますが、本国に強制送還は決定していますので残らず捕まえてしまいますがよろしいですか」

「アイクルこちらに誘導してくれ、元テファリーザ王国の国民に傷を負わせた奴らだ、こちらからでも迎撃する」アリアに聞こえないように念話で話す。

 四輪車で走っていると暴動のような不良騎士団の一団が襲いかかってくる。

「アイクル、シズ、アリアを守ってくれ、こちらでも打ちのめす!!!」


 人外の剣技で二百人規模の不良騎士団を後方からやって来る竜戦士と挟み撃ちにして、打倒うちたおしていく。竜戦士は圧倒的な力で騎士を吹き飛ばして、僕は弓矢を奪い連射して射貫いていく。襲いかかる騎士団長には一振りで弾き飛ばしていく。宙に浮くくらいの膂力で鎧の隙間に刺突を入れながら胴を撃ちなぎ倒して進む。悲鳴を上げながら襲い掛かってくる不良騎士団をゆっくりとした時の時間でなぎ倒していく。竜戦士が包囲して残らず仕留めると、「残らず捕縛して両大国の使者へ投げ渡せ、こいつらが『ハザン商会』の妨害をしていると」竜戦士の兵士長ガダンが返事をして捕縛していく。周りから住民の喝さいが沸く。そこにはヒドラ元騎士団長の姿もあった。復讐の為だろう、目つきが尋常じゃなかった。上手く誘導したものだ。自分達が襲われたと聞けば借りが出来るという物だと思う。説得材料の為役にたってもらおうじゃないか、不良騎士団を引き立てるとレイド殿に連絡を取る様にお願いする。僕達夫婦に復讐の為襲いかかって来たと報告するように頼む。古城に戻ると、青い顔をしたレイド殿が来て非礼を詫びて行く。大国の支配に誤りがあると認めたようだ。補償金を支払い本国に帰っていく。エリザ殿も来て非礼を詫びて行く。東側の大国の騎士団も混ざっていた。大国の国王に報告して置くといい部屋を出て行った。アリアは感動したように抱き着いて来る。抱きしめて安心させるように背中を撫でる。

「ハザン、かっこよかったわ、アイクルもシズも守ってくれてありがとう。私も騎士団長だから心配はいらないわ」

「私共も武闘の心得がございます。何事もなくて良かったです。お茶でも入れましょう」

「私も安心して見ていました。ハザン様強いのですね。見とれてしまいました」

 お茶を用意しながら無事を喜ぶように何事もなく話す二人だった。

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