第34話 俺たちが水族館作戦の変更をするまで

「そろそろカワウソのゾーンじゃない?」


「そうだな」


 結局イルカショー以降いい案が思いつかずただただ楽しんでいた。


「何かいい案思いついた奴いるか?」


「……」


梨花りか。茨木さんからの連絡は?」


「ないね」


「じゃあ、さっきの案にするか」


「誰がその2人の近くで喋るの?」


「まあ誰でもいい気はするが、一応男女の方が良いかもな」


「じゃあ、私やりたーい」


「梨花よりは文殊みことの方がいいだろうな。そこまで声も聞いてないだろうし」


「そっちはどうするの?」


 文殊が俺か芦屋どちらがその作戦をするか尋ねる。


「俺は結構喋ったし、芦屋の方がいいだろ」


「まあ、僕も少しは喋ったけど、安倍くんよりは少ないだろうしね」


「どういう風に喋ればいいかな?」


「2人の近くでカワウソの餌やりがあるってことをさりげなーく言えばいいんじゃないか?」


「それが気になってるんだけど……」


 正直言ってこの作戦にはあまりにもキツすぎる。

 渡辺さんが気づかないとしても、多分茨木さんなら気づきそう。

 それでいて2人が行くのだろうか。

 でも、俺ができることはその1回のみのチャンスを待つことじゃない。

 もう一度視よう。


「文殊。一旦来てくれないか」


「え? いいけど」


「ごめん2人とも。すぐ戻ってくるから」


 確実に怪しまれたけど、こうするしかない。

 一応、芦屋の未来からでも2人がどうなるかを視れたが、花山さんのように未来が視づらい体質の人もいるかもしれない。

 もし、あの場で何度も芦屋を見てフリーズしていたら、違う意味で変に思われそうだからやめた。文殊についても同様。

 梨花は変に鋭いところがあるし、未来を視る時はあまり見られないようにしよう。


「どうしたの?」


「未来を視たい」


「いいよ。多分変に思われてるし、すぐ済まして」


「わかった」



 ……



 分かりきっていた事だが、今のままじゃ秒でバレるな。

 どうするべきだ。


「ねえ、2人とも」


「どうしたんだ梨花」


「結構元も子もないこと言うんだけど、別にごうくんにならバレても良くない?」


「ああ〜まあ、確かにそれはそうなんだけどな」


 俺も最初は確かにそうすべきだと思っていた。

 しかし、危惧しなければ行けないのはそれを茨木さんに完全にバレずに本人に伝えるなんて出来るだろうか。

 または、渡辺さんもデートプランを考えているはずだし、それを崩してまで俺たちの言葉を聞いてくれるのだろうか。


 数秒の沈黙が流れる。



「いや、やっぱりそうしよう。それが最適策かもしれない」


「でも、結局茨木さんがいない時を見計らないと教えることは出来ないんじゃないのかい? もうそろそろ着いてしまうんだし、そろそろ手を打たないと」


「そうだ。出た先に売店あるじゃん。そこで被り物買ってきてよ」


「いやいや、とんでもないこと言うなよ。出たらもう戻って来れないし、それで渡辺さんに接触しても不審者じゃねえか」


「大丈夫だよ。剛くんだったら」


 俺が言うのもなんですけど。渡辺さんあなたある意味信用されすぎでは。


「分かった。僕が買ってくるよ。安倍くんは出口の辺りまで来てくれないか。外から渡すから」


「本当にやるのかよ」


「キヨアキくん。うちらを頼って」


「わかった。頼んだ芦屋」


「ああ、任された」




 まさかの芦屋から貰った被り物は頭につけるやつ。

 いや、もうちょい顔が隠れるやつだと思うじゃん。

 普通にほぼカチューシャじゃねえかこれ。


「キヨアキくんそれ被って」


「ふははは。まじで息ができない。しんど……はははは」


「浮きすぎでしょ……くくっ」


 被った瞬間2人に爆笑されてしまった。

 いや、こんなの確実にバレるだろ。


「一応芦屋から他にサングラスとカワウソ餌やりのペアチケットもきっちり貰ってきた」


「サングラスつけてみて。頭のやつつけたままで」


「ふはははは」


 もうええわ。


「とにかく、これで行くか」


「偉く乗り気だねえ?」


「こうでもしないと埒があかなそうだからだ。勘違いするなよ。まじでやりたくてやってる訳じゃねえからな」


「うん。分かってるって」


「ねえ、キヨ。渡辺さん1人でどこか行くよ? トイレじゃないの?」


「今行って伝えればいいか」


「ええーその格好取らないでよ」


「うるせー」


 俺はすぐさま渡辺さんが入ったトイレに俺も向かう。


「はあ。不安だ」


「何がですか?」


「いやーそれがデートが上手くいってるか不安で……」


「って君はあの時の占いの子じゃないか! どうしてここに?」


「まあ、それは渡辺さんの告白を応援しにって感じでなんですよ。まあ、とりあえず時間もあんまないんでこれあげますね」


「なんだこれは?」


「カワウソの餌やりが出来るみたいですよ。ここの少し先にカワウソのゾーンがあるんですけど、それペア用なので茨木さんとどうですか?」


「本当か? それは助かる。ありがとう」


 こんなすぐに受け取ってくれるなんて思ったより計画は練られていなかったようだ。

 まあ、渡辺さんのことを考えればそうか。


「それでは」


「それでそのポケットから出ている水色のやつってなんなんだ?」


「ははー。イルカの被り物ですよ。いります?」


「いいのか?」


 なんで貰うんだよ。


「いいですよ。これ被って茨木さんの所に行ったらどうですか?」


「本当にありがとう」


「あと、俺があげたってことは内緒で」


「このイルカの事か?」


「いや、イルカじゃなくて。まあ、イルカは誰かから貰ったって言ってもらったらいいんですけど。そのカワウソのチケットのことです。前もって準備していたことにすれば好感度あがるんじゃないですか?」


「おう。わかった」


 そのまま渡辺さんは茨木さんの方へと戻って行った。

 その時聞こえた「え、何してるの?」という人生で1度2度聞くかどうか分からないドン引きの声が聞こえてきた。

 流石の茨木さんもあれは許容できなかったらしい。

 次見た時にはもう被り物はしていなかった。









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