第19話 魔法剣の正体
『
リタの手に握られた魔法剣は、簡素な見た目の短剣だった。
とてもでないが、帝国の
冒険者が携帯する
少なくともリタにはそう見えた。
「――っ!?」
が、エイトールはそうではないらしい。
リタが持った魔法剣を見て、ぶるりと肩を震わせる。
まるで竜が目の前で
そんな極大な力をリタの持つ魔法剣に感じたのだ。
「すげぇ剣だな。これとは戦いたくねぇ」
「そうなのですか?」
残念ながら、リタには魔法剣の凄さがわからない。
もしくは、魔法剣がエイトールの感性に合わせた形へとなったのか。
『
つまり――。
「ではどうぞ、エイトール」
「えっ?」
リタは『
当たり前かのようなその決断に、思わず驚きを見せる。
「な、なんで俺に?」
「プレゼントだなんて思わないでください。これはお前に戦いを強要する恥ずべき行為です。それでも私が皇帝になるためにはエイトールの強さに頼るしかありません。この剣は、そんなお前の力になるための剣です」
リタは言い切る。
つまりこれは自分のためなのだと。
エイトールはじっとリタの赤い目を見つめる。
悔しそうな顔だった。
最も血を流す役割を友人に任せてしまっている。
それを悔しいと思う心が、顔を見ただけでわかった。
優しい皇帝だと、エイトールは思う。
そんな優しさで皇帝が務まるのか、とも。
でも――。
「わかった。この剣でお前を守って見せる」
立場というものは人を変えるものだ。
きっと皇帝になればリタにも自覚が芽生えるはず。
それまでは俺が守ってやろうと、改めて心に強く思った。
そうして、エイトールは膝をつきながら手を差し出す。
「よろしく頼みますね、エイトール」
「ああ、任せとけ!」
不思議な森の巨大樹の中――。
幼き皇帝と他国の王子の奇妙な
***
そして大樹の裂け目から出た瞬間だった。
エイトールはそれを感じた。
「リタ!」
「えっ?」
咄嗟にリタを背後に庇い、もらったばかりの短剣を振る。
キンッ、と音が弾けた。
飛んできた矢が地面へと撃ち落とされる。
「およ、お見事。気配は消してた気はするんすけどよく気づいたっすね?」
「お前の視線は粘ついててよくわかるんだよ。方角までばっちりな」
「あらら〜、アタシの熱烈なラブコールは隠しようがなかったっすか」
コロコロと表情を変えながら茂みから出てきたのは、ルイーダだ。
肋骨が折れているはずだが、見たところ動きに負傷はない。
何かしらの麻酔薬を使っているのかもしれないとエイトールは思った。
「というかお兄さん、よく無事でしたね。あの毒を食らって生きてる人、初めて見ましたよ」
「俺は無敵だ!……と言いたいところだが、実際ヤバかったな。俺が生きてるのはリタのおかげだ。うん、ありがとうリタ!」
「わ、わかったから前を向いてください!」
真正面からのお礼に頬を赤くしながら、リタは前を指差す。
ルイーダはそんなふたりのやりとりに腹を抱えていた。
「にはっ! お兄さんたち面白いっすね、こんな森の中でイチャイチャするなんて」
「おう、俺とリタはラブラブだぞ!」
「も、もう黙りなさい、エイトール!」
「いやぁー、そんなん見せつけられたら
そう言って、ルイーダは地面を蹴った。
その手には、表面にぬめりのあるナイフが握られている。
おそらくは毒だろう。
そう予想したエイトールだが――。
(……は?)
心の中で疑問符が跳ねる。
遅いのだ。
ルイーダの動きがあまりにも遅い。
さらにエイトールは気づく。
遅いのはルイーダだけではない。
落ちてくる葉っぱも、風の音も、周囲の光景の全てが遅く感じる。
そして同時――。
エイトールは手にしていた魔法剣が薄く輝いていることに気づいた。
(もしかして、この剣のおかげか……?)
そう思いながら、エイトールは駆け出す。
普段よりも速く動けるような気がする。
違う。
やはり周囲の光景――世界の流れが遅いのだ。
まるで水の中を動くかのようなもどかしさ。
そんな中、エイトールだけが普段と同じ速さの世界を生きている。
つまり――。
「おらぁああああああっ!!」
エイトールは
一回ではない。
同時に三連撃。
「なッ!?」
そして軽いのに、その切れ味は
頑丈そうな鎧があっさりと裂ける。
まるで熱したナイフでバターを切るかのように。
彼女の顔に初めてとも言っていい困惑の色が浮かぶ。
「み、見えなかった……なんすかお兄さん、その速さ――」
ルイーダが何かを言い切る前に、エイトールは構えていた。
否――光の帯びた魔法剣を既に突き出していた。
「食らえやぁああああ!」
「ぎぃいいっ!?」
あまりの痛さにルイーダはナイフを落とした。
無防備になった女騎士にエイトールは追撃をしかける。
「寝てろぉおお!」
「がっ!?」
痛みに
冗談かのように吹き飛んだルイーダは、木の幹にぶつかって地面に落ちる。
仰向けに倒れた女騎士は白目を
圧倒的だった。
「す、凄いですね、エイトール」
「お、おう、俺にかかればこれくらい余裕だぜ!」
「……? どうしてそんな焦ってるのですか?」
「……いや、焦ってはねぇけどよ」
エイトールは手にした魔法剣を見つめる。
剣身に血がべったりとついた
(これは……)
今の戦闘でエイトールは悟る。
この剣は魔剣と呼ばれる、クレティカでは封印の対象となる禁忌の道具だ。
過ぎた力は身を滅ぼす。
魔剣の力に溺れて廃人となった知人のことをエイトールは思い出していた。
しかし――。
(
エイトールはそう思い、小剣を
大丈夫。
俺は力に溺れたりなんかしねぇぞ、と心に誓いながら。
「そんな深刻な顔をしてどうしたのですか? いつものマヌケ顔の方がお前っぽくて素敵ですよ?」
「急にひどくね!? 俺だって真面目な顔する時くらいあるぞ!?」
リタの冗談……冗談なのか?
真偽は定かではないが……とにかく、その発言のおかげでエイトールは
とりあえず、ルイーダを蔦で縛っておいた。
あまり強くは結ばず、自力で脱出できるように。
殺すつもりはないが、目を覚ましてすぐに追いかけられても面倒だからだ。
「魔法生物に襲われたら、そこは諦めてくれ。お前だってこっちの命を取るつもりできたんだろ? ならこっちだってこれくらいの譲歩が限界だ」
と、気絶した相手にそんな言い訳を並べておく。
リタは何か言いたそうだったが、最後まで黙ったままだった。
「よし、行こうぜ、リタ」
「あ、はい」
そうしてふたりは再び、帝都に向けて出発した。
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