第五話 情けない俺のラブコメ

 一週間程たった日、ホームルーム終了後すぐに荷物をまとめていると玲奈が話しかけてきた

「正吾!今日さ」

「ごめん、玲奈。今日、大輝とキターバックス行くんだ。」

「そう、楽しんでね」

 何か言いたそうにしていたがこれでいいんだ。 

 俺はただの幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもない。

 あいつの恋愛を邪魔する権利なんて俺にはない。

「正吾なんかあったのか、冬崎さんと一緒にいないけどさ」

 大輝は飲みかけのフラッペを机に置き、気を遣うように俺の顔を見る。

「あいつが恋愛してるのに俺が邪魔になったら可哀想だろ。幼馴染としてはあいつには幸せになってほしいのよ。そうだ、いくらイケメンでも玲奈のことだいつも通り振って終わりだろう。だから一緒にいないようにしてる」

「そっか。あのさ、俺は転校ばっかりで幼馴染ってのがいないからそれが正しいのかどうかはわかんねぇけど、誰よりも冬崎さんを知ってるお前が口出しちゃいけない理由もないんじゃねえの? わがままでいけよ正吾」

「・・・」

「やべっ、俺バイトの時間だわ、がんばれよ!」

「お、おう、、。」

 大輝のやつバイトあるのに「キタバ行こうぜ」って誘ってきたのか。

 わがままか。

 俺はどうしたいんだろう。あいつの為って自分が傷つきたくないってだけ。

 あいつの邪魔をしたくないって距離をとるのは自分から離れていくのが怖いから、自分から離れて後悔するくらいなら真正面からぶつかって離れていかれる方がきっと後悔しないだろう。勇気が出ないのを玲奈の為とかカッコつけて、お前は何者だよって話だ。俺なら俺らしく最後まで諦めず真正面から向き合ってやる。


「先輩わざわざ家までありがとうございます」

「気にしなくてもいいよ、暗いし冬崎さんくらい美人だと危ないだろうから」

「ほんと口がうまいんですから先輩」

「じゃあ、またね。明日返事よろしく!」

「はいー」

 笑顔で手を振る先輩に応えるように振り返す玲奈。

「玲奈、、。」

「なに、散々距離取っておいて何か用でも?」

 言葉に抑揚はなく、それだけで怒っていることはわかった。俺がやったことだ、玲奈が怒っていることぐらい百も承知だ。でもこれだけは真正面で聞きたかった。

「先輩と付き合うのか」

 どっちでも俺は良かった。どう転んでも玲奈の言葉で聞けば諦めがつく。

 分かってる、きっと玲奈も先輩のことが好きなことくらい。

 でも玲奈から帰ってきた答えはどちらでもなかった。

「あんたに関係ない、帰って」

 付き合うって言われる覚悟なら出来ていた。

 今思えば、結局また自分が楽になりたいだけだったように感じた。

 諦められる理由を玲奈に求めて、彼氏ができれば間に入る余地はなくなるから。

 でも、帰ってきたのはまるで他人のような幼馴染としての返事ではなかった。

「ごめん」 

 情けないことだとは思うが自分が距離を取って起きたことで言い訳できるような立場に俺はない。ただその場を後にするしかなかった。


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冬崎さんと好感度ゼロな俺のラブコメ 加茂ユヅル @Kamoyuduru

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