第ニ話 どうやら変わらない日常

「チリリリリッ、朝デス、八時デス」

 今日も音声目覚まし時計オキルンデスが、朝の八時を知らせる。

 ああ、そういえば俺振られたんだよな、、、。


 昨日はあんなこと言ったけど、好感度ゼロからどうやって惚れさせるんだよ。

 多分もう距離とられるだろうしなぁ。


「無理なのかなぁ、、。」

「げっ」

 溜息をしながら部屋を出ると恒例行事ともいえる妹との鉢合わせイベント発生。

 さて落ち込む兄に対し、どんな鋭い攻撃を繰り出してくるのか。


「なんでそんな顔疲れてんの、キモ」

 いつも通りの罵倒と普通の人ならば感じるだろうが今日の茉莉は一味違う。


【なんでそんな顔疲れてんの】この発言を深く考えると、俺の暗い表情を気にしているだけでなく、『お兄ちゃん悩んでたら相談乗るよ?』という茉莉の優しさすらこのたった一言には集約されていると言えよう。


「ちょうど面白い動画がケーチューブにあって、ついつい夜更かししたんだよ」

「ふーん、そうなんだ」


 茉莉の俺を心配する気持ちは嬉しいが可愛い妹に、こんなことで心配させるわけにはいかないからな。茉莉、兄ちゃん頑張るよ。頑張って玲奈の事落としてみせるからな。

  

「ご馳走様でした」

 食べ終わった食器を流しへと持っていき、玄関へと向かう。


 果たして、振った相手をわざわざ迎えに来る女がこの世に存在するのか、そんな事を思いつつドアを開けるとそこにはいつもと変わらない光景があった。

 「おはよう正吾」

 「れ、玲奈? なんで」

 「なんでっていつも一緒だからじゃない」

 いつも一緒だから、そんな言葉で片づけられる話なのか、俺なら気まずくて一緒にいることも嫌だと感じると思う。玲奈はなぜ好感度ゼロの俺と今まで過ごすことができたのか。


 いくら理由があったとしても嫌いな相手とこの十七年間を過ごしてきた事には何かがあるはずだとつい口に出してしまう。

 「なにが目的だよ」

 「目的ってなによ、ただいつも通りにしているだけじゃない」

 玲奈は白々しい態度で軽く微笑みながら俺の顔を覗き込む。

 「昨日振った相手となんか普通は登校しようと思わないだろ」

 そうだよ、ただでさえ可愛すぎるってのに、こんなことされたらまた勘違いしちまう。


 「そうね、普通って何なのかしら。確かに私は昨日正吾を振ったわ、でも、一緒に登校しないメリットとデメリットを天秤にかけたときにメリットの方が大きければそっちを選ぶのもある意味普通ってやつなんじゃない? それに十七年間も一緒で今更、別々に行きましょうなんて周りの人が知っちゃったら変な心配させちゃうしね、。」


 玲奈によって繰り出される正論の連発に俺は「それもそうだよな」と情けない声で返すことしか出来なかった。今の俺にはこれで良かったのかは分からなかったが、心のどこかで安心している自分がいた。


 そんなこんな話しているうちに学校へと着いた。


 俺の家から高校までの道のりが短いとはいえ、今日は時間の経過がいつもより早く感じた。

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