冬崎さんと好感度ゼロな俺のラブコメ

加茂ユヅル

第一話 好感度ゼロな俺のヒロイン

冬崎玲奈ふゆさきれいな】は容姿端麗、成績優秀で皆には冬崎さんと呼ばれている。


 そんな彼女とお近づきになろうと他校の男子、他県の男達さえも学校に押し寄せていたが、誰も彼女のお眼鏡にかなうものはいなかったという。

 そして、彼女が誰とも付き合わない理由それは、幼馴染である俺のことを好きで、好きでたまらないからだと俺は確信している!

 それはなぜか、教えて差し上げよう!


 一つ、毎日、家の前で俺が出てくるのを十分前には待ってくれていること。

 二つ、毎日、登校も下校も共にしてくれていること。

 三つ、毎日、俺のお弁当を作ってくれていること。

 最後に俺たちは幼馴染であるということ


 ここまでの理由が揃っていて、俺のことを好きじゃない可能性があるものか。

 否、これ以外の細かな行動、発言、仕草どれをとっても告白成功率百パーセントといっても過言ではないだろう。

 ここまでの理由があっても今まで告白をしなかったのは、俺がチキンだったからではなく、明日、完璧な告白をするためである!


「ふふふ、いけるぞ、いける! この十七年に進展の時!」

 ガララっと部屋のドアが開くとそこには妹がいた。

「お兄ちゃん。」

「なんだ、妹よ。お兄ちゃんが恋しくなったのか」

「お兄ちゃん相変わらず気持ち悪い、もう夜だから静かにして」

 ふざけて返した俺だが、ゴミを見るようなその目に震え上がってしまった。

「ご、ごめん茉莉まつり。」

 妹は俺に対して異常に冷たい。

 いや冷たくなってしまったというのが正しい。

 昔はかなりのお兄ちゃん子だったのだが、思春期の魔力に充てられ変わり果ててしまった、今も天使だがあの頃の輝きをもう一度見たい、、。


「そういえば考え事をしていたせいで時計をみてなかったな」

 そう思い時計を見ると針は二十三時を指し、カチカチとなる針の音が、なぜか少し大きく聞こえた。

「明日うまくいきますように」

 うっすらと暗い天井は時間が経つとともに、暗幕に閉ざされた。


「始まってまいりました、こんな二択、君ならどっちを選ぶのコーナー!」

 寝ているはずの俺の頭の中にテレビ番組進行張りの、謎の声が響いてくる。

「一、女の子の好感度が見えるようになる」 

「二、今ここで死ぬ」

「さあ、選べ少年!」

 なんだこの夢、急に選べとか何言っちゃてんの⁉

 しかも、待て、聞き間違いか、聞き間違いだよな、今ここで死ぬ? 死ぬって言った!

 選ぶもなにも、馬鹿なのか、この二択、実質一択じゃねえか!

「そんなの【女の好感度が見えるようになる】しかないじゃねええかぁぁぁ」

 ベッドから勢いよく起きる俺の横で、「チリリリリッ 朝デス、八時デス」音声目覚まし時計オキルンデスが朝の八時を知らせる。


 何だったんだよあの夢、感じていないだけで、疲れが溜まっていたのか。

 夢のことなんて引きずる必要もないだろうけど妙にリアルだったな。

 ベッドから重い腰を上げ朝食を食べに降りようとドアを開けたところで、妹と鉢合わせになった。

「きもい、邪魔、どけて」

 うーん、切れ味のいい罵倒に、いつもの鋭い目つき、冷たい態度やはり俺は、思春期純度一〇〇パーセントで嫌われている。

「朝からそんな怒鳴るなよ、折角可愛いのに」

「ホント気持ち悪い! 死ね!」

 そう言って階段をかけ下りる妹。

 あんなこと言わなければただの可愛い妹なのに。

「って、九〇パーセント⁉」

 下りる妹の頭にはなぜか、ハートとパーセントの表示があった。

 あれが夢であった【女の子の好感度が見えるようになる】なのか?


「いただきます」

 朝食を食べながら茉莉の頭の上をもう一度確認するが頭の上には変わらず好感度が表示されていた。

 え、茉莉ちゃんデレデレからツンデレになっただけなの、好感度が見えるせいでアニメのツンデレ美少女妹を見ている気分になってしまう。

 落ち着け俺、ここは三次元。

 全く、スープとツンデレのアクセントで最高の朝食じゃねえか!

 両方の意味で「ごちそうさまでした」

「お兄ちゃんなにその目、まじでキモイ」

 もう茉莉ちゃんツ・ン・デ・レなんだから。


 リビングを後にし、靴を履いているところで昨日の決断を思い出す。

 今日、告白する前に好感度を知ってしまったら告白のドキドキ感を味わうことができないのではないかと不安になるかもしれないが問題はない。

 もともと一〇〇パーセントと表示されることは確定で間違いないが、答えがわかってしまっていても新鮮な反応をするのも紳士の務め。

「行ってきまーす」

 男、高橋正吾たかはしせいごいざ勝負の日!


 心に覚悟を決め勢いよく扉を開けると、そこには見慣れた美少女がいた。

「おはよう、正吾!」

「おはよう玲奈」

 誰も彩ることのできない真っ黒な長髪、ビー玉と遜色ない大きさの目、モデル顔負けのスタイル、それに加え満面の笑みで俺を迎える玲奈は、思わず見とれてしまうほどに美しかった。

 やっぱり世界一だよ、可愛いよ、可愛すぎる!

 こんな幼馴染に好かれてるなんて俺は、なんて罪深いんだろうか。

 心で神に謝罪しながら、玲奈の頭に視線を飛ばすと予想もしない数値が表示されていた。

 そうそう、ゼロゼロあれ、おかしいゼロ二つの前に一がない。

「へっ? ゼロパーセント?」

 何度も目をこすったが表示が変わることはない。

 どういうことだ、俺に無関心? 好きすぎて一周周りすぎちゃった的な?

 嘘だよね、あれだけ理由があって好きじゃないわけないじゃん。

「目ばっかりこすってどうしたの正吾?」

 そうだよ、こんな心配してくれる玲奈がゼロってことはないよ。

 あまりの衝撃に意識が飛びかけたが、大丈夫と自分に言い聞かせることで少しばかりの心の平穏を取り戻した。

「じゃあいこっか玲奈」

「うん!」



 


「・・・・。」

「・・・・。」

 この地獄の状況を説明をすると、ゼロパーセントの衝撃になかなか口を開くことができない俺と何か言いたそうにしている俺の顔を見て、待ちの姿勢の玲奈。いつもなら雑談に花を咲かしているであろう登校中に、これまでにない沈黙が訪れている。

「どうしたのせい、、」

「いい天気だな玲奈」

「急にどうしたの、いい天気だけどさ」

 玲奈の言葉を遮るように、俺の会話デッキの一つ「いい天気ですね」を発動した。

 危ない、ギリギリ間に合ってくれたぜ。冷静になれ俺、これも計算通りだ、ゼロパーセントだからと言って告白することには変わりはない。そうだ、チキンじゃない勇気ある俺は報われる、そうだ報われるんだ。だからいつも通りを貫き通し、計画を実行するんだ。

「いやさ、今日は一段と空がきれいに見えてさ」

「そうかなぁ」

 やっとの思いで沈黙から解放されたのも束の間、後ろから食パンを口に咥え、陸上選手を彷彿とさせる完璧なフォームで「やばいやばい、朝練に遅刻―。」と宮下桜子がこちらへと向かってくる。全力疾走で俺たちの横を通り過ぎる瞬間、「おはよ、玲奈、高橋君!」それだけをいい校門へと走り去っていった。

「あいつ、宮下か?」

「多分?」


 【宮下桜子みやしたさくらこ】は、俺たちと同じ二年B組でハードルの国体選手、綺麗な茶髪のポニーテールが特徴的で天真爛漫、面倒見が良く、男女問わず人望も厚い、その可愛さ故にクラスでは冬崎派と宮下派に派閥が分かれている。どちらも甲乙つけ難いだけに高一の頃から密かに裏で派閥同士のバトルが行われていたこともあると聞く。

 朝から元気だなと感心しつつ校門を抜けた先には、とんでもない光景が広がっていた。教室に向かっている女子生徒、運動場で練習をする女子ソフト部員、視界に入る全ての女の子の頭の上に好感度の表示が示されていた。見るからに話したことのないような女の子の頭には一律、五〇パーセントの表示が。どうやらこの好感度の可視化においての基準は五〇が初期値であることが分かった。ということはゼロはかなり嫌われているということになる。

 考えるな俺、所詮は数値だ。そこに感情がしっかりと反映されている根拠はない。

 俺と玲奈には十七年の思い出がある、数値ごとき跳ね返してくれるわ!


 二年B組の教室のドアを開け、「おはよ」と右手を上げると同じように「よっ」と返す彼の名前は、【藤原大輝ふじわらたいき】新聞部の部長で学校の情報屋のような立ち位置。顔が良くクラスの盛り上げ役で、度々俺の事を煽るが大切な親友だ。

 「やあやあお二人さん、朝からお熱いねぇ」

 「お熱いも何もそんなんじゃねえよ俺たちは」

 「そうよ、幼馴染が仲良いなんて当たり前でしょ」

 そうそう仲良いなんて当たり前。

 なんせ今日告白して恋人になるんだからな!


 

 「ごめん正吾、付き合えない」


 昼過ぎの屋上、雲一つない快晴で最高の告白日和。

 十七年間苦楽を共にし、数々の思い出がある俺たちは今日カップルになる『予定』だった。差し出した右手は風でなびかれ冷たく乾燥し、下に向けた顔を起こす勇気も手を引く勇気も今の俺にはなかったが、思わず疑問を口にした。

「なんで、ダメなんだ」

「なんでって、無理だから」

「俺の事好きじゃないのかよ」

「しつこいわね、好きじゃない」

「聞いてもいいか」

「もう、なによ」

「毎日、家の前で俺が出てくるのを十分前には待ってくれていたのはなんでだ」

「あんたが出てくるのが遅いだけ」

「毎日、登校も下校も共にしてくれていたのは」

「男が寄ってこなくて便利だから」

「毎日、俺のお弁当を作ってくれていたのは」

「あんたのお母さんにお願いされてるから」

「最後に、俺のこと嫌いなのか」

「愚門ね嫌いよ」

 その言葉を聞いた瞬間、今までの思い出がフラッシュバックしてきた。

 あの時の笑顔も、あの時の言葉も、全部全部嘘だったのかよ、十七年間、今までずっと俺の事、騙してきてたのかよ。

 そう思うと心が締め付けられ、今まで純粋に好きだった俺の気持ちが踏みにじられたような気がした。

「要件が終わったなら帰るね正吾!」

 屋上から帰る玲奈はいつも通りの口調で俺に背を向け、扉の奥へ消えていった。

 あいつの言う通り要件はない、あそこまでストレートに嫌いと言われて諦めないやつはいないだろう。でも俺は十七年間ずっと一緒だったこいつをこんな嫌いの一言で諦められるわけがない、いや、あきらめねぇ、諦めてやんねぇよ!



「やってやる! 好感度ゼロな俺のラブコメを!」

 

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