第15話 旦那様のご両親がやって来ます

旦那様と腹を割ってお話をしてから1週間が過ぎた。この1週間で、少しずつではあるが、旦那様との距離も近づいてきていると感じている。最近では、私の目を見て話してくれる旦那様。


その姿を見ると、やはり嬉しく感じる。領地についてのお勉強も、夕食後に行っている。ここでも旦那様はとても丁寧に教えてくれる。ここだけの話し、クリスよりもわかりやすい。このまま、もっと旦那様と仲良くなれたら嬉しいのだが…


今も一緒に夕食を食べている。相変わらず無言の時間も多いが、それでも以前よりゆっくり食事をする様になった旦那様。


「マリアンヌ…その、大事な話があるのだが…」


急に旦那様が話しかけてきた。一体どうしたのかしら?


「実は来週、急遽領地にいる両親が、王都に遊びに来ることになったんだ。それで…その…」


「まあ、ご両親がですか?それは楽しみですわ。結婚してから、一度もお会いしたことがなかったですものね」


きっと侯爵家の妻になった私を見に来るのだろう。お優しい旦那様のご両親だ。きっとお優しいのだろう。会えるのが楽しみだわ。そう思っていたのだが…


「うちの両親はちょっと変わっていて…正直あまり会わせたくはない。ただ、会わせない訳にもいかないから、少し顔を出してくれたら、後は部屋に戻ってもらって構わないから。2週間くらいしたら、帰るだろうし。俺もその間は騎士団を休んで、両親の相手をするつもりだ。だから、君には迷惑を掛けないから安心して欲しい」


「え…でもそれでは、失礼に当たります。私は大丈夫ですので、側にいさせてください」


「わかった…でも、本当に無理なら無理で大丈夫だから」


「はい、ありがとうございます」


いくら旦那様のご両親が少し変わっているからって、少し会って後は関わらないだなんて。そんな失礼な事は出来ない。出来るだけしっかりと、おもてなしをしないと。


部屋に戻ると、早速カリーナに話しかけた。


「ねえ、旦那様のご両親って、一体どんな方なの?」


「そうですわね。大旦那様は、非常に無口な方でございます。一方大奥様は、非常に気さくな方ではあるのですが…なんと申しますか、思った事を何でも口になさると言いますか…距離感がないと言いますか…」


言葉を濁すカリーナ。なるほど、カリーナの情報では、そんな変な感じのご両親ではない気がするわ。それなのに、どうしてご両親に私をあまり会わせたくないのかしら…


とにかくご両親が快適に過ごしてもらえる様、しっかりおもてなしをしないと!



1週間後。

今日はついにご両親が領地からやってくる日だ。朝から忙しそうに働いているメイドたちを見ながら、私も何かした方がいいのかと思い、ウロウロしている。


「大旦那様と大奥様がいらっしゃるのは、昼過ぎです。どうか奥様は、お部屋で休んでいてください」


そうカリーナに言われてしまった。私、きっと邪魔なのね。でも部屋でじっとなんてしていられない。そうだ、せっかくだから、屋敷に飾るお花でも摘みに行きましょう。


そう思い、中庭へと向かう。今日もとても綺麗なお花たちが咲き誇っている。綺麗ね…


「奥様、いらしていたのですね。見て下さい、カーネーションの花が今見ごろを迎えていますよ」


「まあ、本当ね。とても綺麗だわ」


赤・白・ピンク・黄色・紫、本当に綺麗なカーネーションが咲いている。そうだわ、このカーネーションを屋敷に飾ったらどうかしら?


「ねえ、このカーネーション。少し分けてもらえないかしら?今日旦那様のご両親がいらっしゃるでしょう?それで、お屋敷に飾りたいと思って」


「もちろんです。どうぞ好きなだけ持って行ってください。他のお花も、好きなだけ摘んでいただいて大丈夫ですよ」


「まあ、本当に!ありがとう。それじゃあ、せっかくだから摘ませていただくわね。ハサミを貸してもらえる?」


早速摘んでいこう、そう思ったのだが…


「奥様が万が一ハサミで手を怪我されては大変です。私が摘ませていただきますので、ご指示をお願いいたします」


どうやら摘んでくれる様だ。確かに素人の私がジョキジョキ切るより、プロに切ってもらった方がいいわね。


「それじゃあ、あの赤色とピンク、それから白をお願い」


「これですね、かしこまりました」


庭師が次々とカーネーションを切って渡してくれる。とても綺麗ね。つい頬が緩んでしまう。ふと庭師の方を見ると、なぜか私の後ろをチラチラ見ながら、花を摘んでいる。気になって後ろを向くと、そこには旦那様の姿が。


「旦那様もいらしていたのですね。見て下さい。このカーネーション、とても綺麗でしょう。せっかくなのでお屋敷に飾ろうと思って、今、庭師に切ってもらっていましたの」


旦那様の近くまで行くと、早速今摘んだばかりのカーネーションを見せた。


「確かに綺麗だな。すまない、君の邪魔をするつもりはなかったんだ…」


そう言うと、旦那様は視線を落としてしまった。邪魔とは一体どういう意味かしら?


「旦那様がお邪魔な訳ないです!そうですわ、せっかくなので、旦那様も一緒にお花を選びましょう。ご両親はどんなお花が好きかしら?」


「花か…すまない、俺はよくわからない。それに俺がいたら、せっかく庭師と楽しそうに話しをしていたのに、邪魔になるだろう…」


庭師と楽しそうに話し?確かに庭師とは話をしていたけれど…


「旦那様、確かに庭師とは話をしておりましたが、お花について色々と聞いていただけですわ」


「そうなのか…あの庭師、若くて優しそうな男だったから…」


何やらブツブツと訳の分からない事を言っている旦那様。こんなところで油を売っていても仕方がない。


「旦那様、綺麗なお花がたくさんあるのですよ。さあ、一緒に参りましょう」


旦那様の腕を掴み、庭師の元に戻ってきたのだった。

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