第14話 旦那様と少しずつ距離が縮まってきました

「それじゃあ、毎日夕食後一緒に勉強するという事で、いいだろうか?」


「はい、もちろんです。よろしくお願いいたします。では、早速今から行いませんか?実は今日、友人たちが来ていて勉強が出来なかったのです。もちろん、旦那様のご都合がよろしければですけれど」


私の提案に、なぜか固まっている旦那様。あら?さすがに今からと言うのはまずかったかしら?


「あの、旦那様。申し訳ございません。お忙しいなら、だいじょう…」


「いいや、忙しくない。早速今から始めよう!至急クリスを呼んでくるから、少し待っていてくれ」


慌てて席を立ち、クリスを呼びに行こうと旦那様が立ち上がった時だった。


“ガタン”


勢いよく立ち上がったせいか、机で思いっきり脚をぶつけたのだ。


「大丈夫ですか?旦那様!」


驚いてそう声を掛けたのだが…


「だ…大丈夫だ。ちょっと打っただけだ。痛くもなんともない」


そう言うと、足を若干引きずりながら、部屋から出て行った。あれは、絶対痛い奴よね…


しばらく待っていると、旦那様と一緒にクリスがやって来た。


「旦那様まで領地について勉強をして下さるなんて、こんな嬉しい事はないです。これも全て奥様のお陰ですね」


それは嬉しそうに、クリスが笑っている。


「クリス、元々俺はそろそろ領地経営の事もきちんと勉強しなければと思っていたんだ。だから…その…」


もごもごと何かを言っている旦那様。


「どんな理由であれ、私は旦那様と一緒にお勉強が出来る事を、嬉しく思いますわ。さあ、早速始めましょう」


旦那様に向かってほほ笑んだ。すると、なぜか明後日の方向を向いてしまった。やっぱり私、嫌われているのかしら…でも、なぜか耳まで真っ赤だ。


「さあ、お2人ともそんなところで突っ立っていないで、お勉強を始めましょう」


クリスに促され、イスに座ると勉強スタートだ。それにしても旦那様は、とても頭がいい。はっきり言って、私なんかよりも領地の事をわかっている。そもそも旦那様、勉強をしなくてもいいのでは…そう思うほど、しっかり理解しているのだ。


クリスも同じことを思ったのか


「そこまでしっかりと領地の事を理解されているのでしたら、いい加減自分で領地経営にも積極的に着手してください。そうだ、明日から奥様とのお勉強は、旦那様が行って差し上げたらいかがですか?人に教える事で、より領地の事を理解できますし!」


そう言っていた。


「お…俺が彼女に、領地の勉強を教えるだと!」


目を大きく見開き固まっている旦那様。私としては、少しでも旦那様と一緒にいられるなら大歓迎だ。


「あの…私からもお願いしますわ。もしお時間があるのでしたら、私に領地の事を色々と教えてはくださらないでしょうか。もちろん、無理にとは言いませんが」


「君がそう言うなら…俺は構わない」


相変わらず私の方を見ずに、そう言った旦那様。私を怖がらせないために、あえて見ない様にしている事を、さっき話した時に言っていたが、やはり目を見てもらえないのは辛い…

でも、焦りは禁物よね。少しずつ、旦那様に近づけたら…


「それでは、よろしくお願いします」


そう頭を下げた。明日からは、旦那様がお勉強を教えて下さるのね。つい頬が緩む。これをきっかけに、もっと旦那様と仲良くなれたら!よし、明日から積極的にアプローチしていかないと!


翌日、早速いつもの様に食堂へと向かった。


「おはようございます、旦那様。今日はとてもいい天気ですね」


「おはよう…ああ、そうだな」


相変わらず私の顔を見ずに、ボソリと呟いている。いつもの私なら、このまま引き下がるが、今日はもう少しだけ頑張りたい。


「旦那様、あの、お話しするときは、私の顔を見ていただけると嬉しいです…」


勇気をもってそう伝えた。すると、ゆっくり旦那様が私の方を見た。その瞬間、真っ赤な瞳と目が合う。


「改めて、おはようございます、旦那様」


笑顔で挨拶をすると


「お…おはよう」


少し恥ずかしそうに、でも私の目をしっかり見て挨拶してくれた。それが嬉しくてたまらない。


「私の目を見て挨拶をして下さり、ありがとうございます。どうかこれからは、私の顔を見てお話ししてください」


「ああ…わかった。努力しよう…」


なぜか真っ赤な顔をして、再び食事を始めた旦那様。食後は笑顔で見送る。


「行ってらっしゃいませ。旦那様」


「ああ、行ってくる。あの…その…今日から領地の勉強の件、よろしく頼む」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。旦那様直々に教えていただけるなんて、嬉しいですわ。楽しみにしておりますね」


「ああ…」


相変わらず顔は赤いが、それでも目を見て話してくれた旦那様。少しずつではあるが、距離が縮まったみたいで嬉しい。


旦那様の乗った馬車を笑顔で見送るのであった。

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