第16話 旦那様のご両親に会いました

「カーネーションもたくさん摘ませてもらったから、次は別のお花を摘みたいのだけれど」


早速庭師に話しかけた。


「それなら、ダリアが奇麗に咲いております。さあ、こちらです、参りましょう」


「ダリアですって。旦那様、一緒に参りましょう」


「ああ…」


再び旦那様の腕を掴み、庭師に付いて行く。


「その花、重いだろう。俺が持とう」


腕一杯に抱えていたカーネーションを、旦那様が持ってくれた。やっぱり優しい人ね。


「ありがとうございます。旦那様」


旦那様にお礼を伝えると、顔を真っ赤にして「ああ…」そう呟いたと思ったら、俯いてしまった。もしかして、照れているのかしら?なんだか可愛いわね。


「旦那様、奥様、こちらです」


庭師が案内してくれた場所は、大輪の花を咲かせた色とりどりのダリアだ。これは見事ね!


「旦那様、見て下さい。とっても綺麗ですよ。早速摘んでいきましょう。ピンクも素敵だし、オレンジもいいわ!そうだ、ご両親は何色がお好きですか?」


「両親か…すまん、何色が好きか、知らなくて…」


申し訳なさそうにそう言った旦那様。確かに親が何色を好きだなんて、知らないわよね。


「それでしたら、旦那様は何色がお好きですか?」


「俺か…俺は…赤が好きだ。後、オレンジも」


「赤とオレンジですね。旦那様は明るいお色が好きなのですね。私も赤とオレンジ、大好きですわ。それなら、赤とオレンジを中心に摘んでいきましょう」


早速庭師に頼んで、赤とオレンジのダリアを中心に摘んでもらう。その時だった。


「父上、母上、盗み見するだなんて、何を考えているのですか?」


急に旦那様が叫んだのだ。旦那様が見つめる方に目をやると、そこには、美しい漆黒の髪に青い瞳をした男性と、金色の髪に赤い瞳をした女性が立っていた。


「あなたがマリアンヌちゃんね!ちょっとキツそうな顔をしているけれど、美しい子じゃない」


そう言うと、女性に抱きしめられた。


「母上、彼女に抱き着くな。それから、キツそうとはなんだ!失礼だろう」


そう言うと、女性から私を引き離した旦那様。この人が旦那様のお母様なのね。確かにカリーナが言っていた通り、思った事をはっきり言い、距離感がないタイプだわ。


「あら。赤い髪にオレンジの瞳をしているから、少し気が強そうだなって思ったのよ。そうそう、今マリアンヌちゃんが持っているダリアの花みたいね」


ふと私が持っているダリアの花を見ると、確かに赤とオレンジ。どちらも私の色だ。もしかして旦那様は…


ふと旦那様の方を見る。すると、なぜか顔を赤くして明後日の方向を向いてしまった。まさか、図星?


なんだか私まで恥ずかしくなって、俯いてしまう。


「やだぁ、なあに?2人で顔を赤くして。でも、どうやら2人とも仲良くやっている様ね。マリアンヌちゃんと結婚したと聞いた時は、本当に心配したのよ。ほら、マリアンヌちゃんは公衆の面前で婚約者に婚約破棄をされた子でしょう。きっとよほど何か問題がある令嬢だと思ったのよ。そんな令嬢をお嫁に…」


「母上、彼女を侮辱するのは止めてくれ!だからあなたと彼女を会わせたくなかったんだ!彼女は素晴らしい女性だ、あの男の見る目がなかっただけだ!やっぱり母上なんかに、君を会わせるべきではなかった。すまない。さあ、こんな失礼な奴は放っておいて、屋敷に戻ろう」


私の手を掴み、旦那様が歩き出そうとした。旦那様のお母様も、オロオロとしている。


「お待ちください、旦那様。私は大丈夫ですので」


旦那様に向かって叫ぶと、再び旦那様のお母様の方を向いた。


「私は確かに、大奥様の言う通り、優しいと評判の婚約者に公衆の面前で婚約破棄された、いわくつきの令嬢です。きっと私に至らない点があったから、婚約破棄されたのだと随分悩みました。もう誰とも結婚する事はないだろう、そう思っていたところに、旦那様から結婚の話を頂いたのです。いわくつきの私を嫁に貰ってもいいと思ってくださった旦那様には、感謝してもしきれないくらいです…」


「君はいわくつきなんかじゃない!あの男が、見る目がなかっただけだ!」


すかさず旦那様が私を庇ってくれた。


「ありがとうございます、旦那様。でも、世間では私はいわくつきの令嬢なのです。それは紛れもない事実なので」


再び旦那様のお母様の方を向き直す。


「そんな私をお嫁さんとして迎えてくれた旦那様、さらに私にとても親切にしてくれる使用人たち。彼らに囲まれて、私は今とても幸せです。これからこの家の為に、旦那様の為に出来る事は精一杯やっていきたいと思っております。どうか、私の事を認めては頂けないでしょうか?」


深々と頭を下げた。こんな私をお嫁に貰ってくれたお優しい旦那様のお母様だ。きっと話せばわかってくれる。そう思ったのだ。


「ヤダ…ごめんなさい。そんなつもりで言ったのではないのよ。ほら、この子、目つきも悪いし、怖いでしょう?だから、もう結婚はしないだろうと諦めていたのよ。そんな中、あなたがお嫁に来てくれたと聞いて、確かに心配もしたけれど、嬉しかったのも事実なの。ごめんなさいね、私、どうも誤解を与えてしまう様で…マリアンヌちゃん、グリムの事、よろしくお願いね」


そう言って笑った旦那様のお母様。


「それから、私の事はお義母様と呼んで。ほら、家はこんな仏頂面の息子と、同じく仏頂面の旦那の3人家族だったでしょう?だからずっと娘が欲しかったのよ。そうだわ、久しぶりに王都に来たから、買い物がしたいわ。マリアンヌちゃん、付き合ってくれるかしら?」


「ええ、私でよろしければ、ぜひお付き合いさせていただきますわ。…お義母様」


「ありがとう。それじゃあ、早速行きましょう!」


「え…今から…」


私の腕を掴み、すかさず連れて行こうとするお義母様。さすがに今からは、急すぎやしませんか?そう言いたかったのだが…


「いい加減にしろ!さっき着いたばかりなんだろう?今日は屋敷でゆっくりしろ。父上も、いい加減母上の暴走を止めて下さい!」


「あ…ああ、すまない」


完全に空気になっていた旦那様のお父様が、慌ててこちらにやって来た。


「とにかく、一度屋敷に戻りますよ」


私の手を取った旦那様が、屋敷に向かって歩き始めた。その後を、ご両親が付いてくる。なんだかんだ言って、お義母様とは仲良く出来そうね。

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