第19話

私は!! なんて軽率な決断をしてしまったのだ……。

日向と旭君が思う存分イチャイチャ……じゃなくて、テスト勉強出来るように。二人との勉強会参加回避を果たすことに成功した私であったが。その代わりに、友人ともまだ呼べるほどではない関係性の空井君と勉強をすることになってしまった……。

私と空井君は「近くで違う科目の勉強してたら気が散るでしょ」と、無理矢理な理由をつけて。自習室内で、日向と旭君から少し離れた位置の席に着く。

二人の様子が気になる……そして、空井君のことも気になる……私、日向以外の男子と二人っきりなんて全く耐性無いのに!! ああ……ルート選択マジミスった……。


「真壁ちゃん、なんか分かんないトコでもあった?」


すると、空井君が小声で声を掛けてくる。


「えっ?」

「さっきから、なんか浮かない顔してたからさ」

「ああ……その……ここの説明が、良く分かんなくって……」


私は思わず、読んでも頭に全然入って来なかった文章を差した。なんか気を遣って話しかけてくれたっぽいのに、分かんないところ無いよ……と、言うのも悪い気がして。


「ああ、そこ言い回しがくどくって分かりづらいよね」


空井君はどこか安心したような笑みを浮かべ、周りに迷惑の掛からないよう。潜めた声で私に解説をしてくれた。


「えっ、空井君の説明……メッチャ分かりやす」


音量に気を付けながら、私は驚きの声を出す。


「マジ? 人に教えるのとか慣れてないから良かったわ~」

「あっ、じゃあ、あの……こっちの部分なんだけど――」


こんな有能な先生なかなか出会えない……私は空井君への認識を無意識のうちに塗り替えられながら、続けて質問をしようとしたが。刹那、視界の端に日向と旭君の姿を捉えてしまう。

日向は私と同じように、分からない箇所を隣の席に座る旭君に聞いていたらしく。日向の教材を旭君が覗き込み、二人の顔はかなりの近距離であったのだ。


(あー!! キス出来そうな距離っっっ!!)


そして、日向の視線がペンを走らせるノートに集中し始めると。旭君は、日向の顔を優しい眼差しで眺めながら。眩い輝きを放つ微笑みを浮かべた。


(とっ、尊すぎるっ……!!)


いや~、良いもの見れた……と、私は一人。満足感と幸福感を堪能していたのだが。ふと我に返り、向かいの席に座る空井君へ目を向けた。

しかし彼は、私の異変には気が付かなかったようで。自身の教材に顔を向けて、手元にあるノートにペンを動かしていた。


「あっ、真壁ちゃんどうかした? また分かんないトコあった?」


私の視線に気が付いた空井君が、小声で尋ねる。

先程、日向と旭君の二人を見て。嬉しさのあまり悶えていたのを悟られていなかったことに安堵しつつ、私は空井君に訊きそびれてしまった疑問を質問するのであった。

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