第6話
新作として
「
「よかった。冷たいスパゲティ、実は初挑戦だったんだ」
畳で膝を崩した
「菊次おじちゃん、窓を閉めてエアコンに変えようか?」
「平気さ。いい風も吹いてるからなぁ」
「うん。夏って感じがする」
サイドテーブルに置かれた水のグラスはすっかり汗をかいていたが、鼻腔に触れる空気には
「菊次おじちゃんと二人だけって、珍しいね」
サイドテーブルには菊次のスパゲティの皿があり、ベッドの隣に用意したちゃぶ台には、淳美の分の皿がある。他には
さっきまで台所で一緒にいた佳奈子も、ここにはいない。
「
菊次は、しみじみと笑った。頬の左側が、微かだがぎこちない。病の後遺症の
佳奈子と菊次が共有しているそれは、家族でも親戚でもない、家が隣というだけの他人が、踏み込んでいい領域だろうか。実の祖父と孫娘のように昼食をともにして、同じ時間を過ごしても、
「淳美ちゃん。最近、教師の仕事はどうだい」
「え?」
いつしか手を止めていた淳美から、菊次は朝顔の
「昔はこうして、淳美ちゃんと二人で遊ぶことも多かったねえ。学校をしょっちゅう休んでいた淳美ちゃんが、教師になるって聞いた時には、
「菊次おじちゃんたら、私はそこまで休んでないよ」
暑さの所為だけでなく頬を薄赤く染めて、淳美は弁解した。確かに小学三年生の頃、淳美は体調を崩したわけでもないのに、何度か学校を休んでいた。その時のことを当事者の淳美よりも、菊次が覚えているのは面映ゆいものがある。
「私、どうして休んだんだっけ」
「喧嘩だよ。五丁目のなっちゃんとね」
「よく覚えてるね。おじちゃんの記憶力、すごいよ」
「なんでも覚えてるさ。淳美ちゃんが喧嘩に強かったことも。なっちゃんも意地を張っていたことも。ちゃんと仲直りできたことも」
「覚えてるよ。仲直りの日のこと。私が飴をあげたんだったね。菊次おじちゃんからもらった飴を、帰り道でこっそりね。お菓子を持っていっちゃだめなのに、ちょっとだけ悪いことを一緒にしたら、共犯みたいで楽しくなって……」
話しているうちに言葉通り、なんだか楽しくなってきた。西日が強く照る帰り道で、街路樹と雑草の微かに湿った青い匂いが、むっと立ち上った夏の日に、友達とランドセルを揺らして走った日の記憶が、香りを伴って蘇る。菊次は、陽だまりで眠る猫のように目を細めた。
「子どもの喧嘩はいいもんさね、次の日からけろっと笑って、また明日って言い合えるような、柔軟な修復の余地がある」
「大人だと、そうはいかない?」
「気になるかね」
試すように、菊次が笑った。今度は片麻痺の名残は気にならず、さっきまで張りつめていた見えない糸が、夏の暖気に溶かされて緩んだのを実感する。
「今日の淳美ちゃんは、学校を休んで
「そう?」
「そうさ。顔に悩みが浮き出ている」
「どんなふうに?」
「色さ」
「色?」
「儂には、色が
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