闇も“変化”も描ききる

(※「夏休み」エピソードを途中まで読んだ時点でのレビューです)

 形ある「変化」を目にすることが出来る物語。

 本レビューでご紹介する『コンプレックス ~心に傷を抱えた少女の一年間~』を一言で言うならば、私はこう表現します。この物語は、一人の少女の「変化」を鮮明に描いた小説です。

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 主人公は幸子──通称「さっちゃん」。
 心優しい普通の女の子ですが、彼女にはずっと心に抱いた「傷」があります。そんなある日、彼女に声を掛けた人気者の男の子、駿くん。駿くんを通じて広がる人の輪。人との関わり。そして楽しい高校生活──……。

 ここまでは、普通の青春小説ですよね? どこかで一回は触れたことがあるであろう親しみ深い導入です。

 けれどこの小説が一筋縄ではいかないのはここから。さっちゃんの抱えた心の闇の深さ。何度も彼女の心を巣食う過去の《声》。楽しいだけではない日々。そして人気者の駿くんでさえ、何かを抱えている様子。
 リアリティある激動の「高校生」たちを、私たちは追っていくことになるのです。このお話、本当に心が震えます。読んでいると苦しい場面が沢山あります。何が待ち受けているのか、ページを捲ることが怖いこともあります。しかし同時に、「この高校生たちを、最後まで見守りたい」という気持ちも溢れてくるのです。
 散々苦しいとは言いましたが、明るい場面も沢山あります。さっちゃんを取り巻く仲間たちとのやり取りはとっても楽しいです。彼らと過ごす内に、さっちゃんの世界は広がり、そうして一歩を踏み出していく。
 闇があるのなら、そう。差し込む光だってあるのです。
 さっちゃんの「変化」を見ていると、そんなことを感じさせてくれます。

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 楽しいだけでは無い青春。傷を抱えてそれでも歩んでいく少女。彼女の変化に、心動かされること間違い無しです。皆さんもぜひ触れてみてください。

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