会わせて欲しい

かっちゃんの車に乗った。


「はやて君、お友達は、大丈夫でしたか?」


「はい。大丈夫です」


「それは、安心しました。帰りましょう」


そう言って、かっちゃんは車を出した。


凛は、眉間に皺を寄せたままずっと黙っていた。


しばらく、走って家に帰ってきた。


「凛君、明日は昼だから。また、連絡するね」


「はい、ありがとうございました。」


凛は、かっちゃんに頭を下げて車を降りた。


「すみません。ありがとうございました。」


「おやすみ、はやて君」


「おやすみなさい」


俺も、頭を下げて車を降りた。


凛は、何も話してくれない。


エレベーターを上がって、部屋にはいる。


俺は、たまらずに凛に声をかけた。


「どうしたの?さっきからずっと黙って」


凛は、鍵を閉める為に俺を玄関の扉に押し付ける。


「凛?」


「怖くなったんだ。急に、ごめん」


そう言った、凛の手が震えてる。


俺は、凛を抱き締めた。


ガチャン…。凛は、鍵を閉めた。


「ごめん。はやて」


凛は、ゆっくり俺から離れた。


リビングに向かう凛の手を握りしめた。


「はやて、snsって怖いな」


凛は、そう言って俺の手を握り返した。


「凛は、かっちゃんがしてるだけだろ?俺とは、違うだろ?」


「それでもだよ。それでも…。人が、命を捨てられるぐらい追い詰められるんだよ。そんなの怖すぎるだろ?」


「凛」


俺は、凛を抱き締める。


「生きててよかったな。」


「勇気がいなくなったら、俺。芸能人辞めてるよ」


俺は、凛から離れてワインを取りに行く。


「その話、聞くの初めてだよな?」


「そうだな。話した事ない」


「聞きたいな。その話。」


「わかった」


俺は、ワイングラス二つと冷蔵庫に冷やしていたデキャンタにいれてるワインを持っていく。


「俺、勇気に芸能人になる事話したんだよ。なれるかわかんないけど、誘われてるって」


「うん」


「そしたら、あいつキラキラ輝いた目させて、はやてなら絶対なれるから大丈夫って言うんだよ。俺、その言葉信じてやってきた。」


「そうだったんだな」


俺は、グラスにワインを注ぐ。


「売れてから他の奴らは、俺に対する態度変わったけど。あいつだけは、変わらなかった。だから、俺。男と付き合ってるって話したんだ。勇気に…」


凛は、驚いた顔をした。


「凛の名前は、出してないから」


「そうじゃなくて、幼なじみによく言ったな。」


「そっちか…。何か、勇気には嘘つきたくなかった。」


「で、何て言ったんだ?」


「勇気は、俺によかったねって言っただけだった。気持ち悪いとかないのかって聞いたら、はやてが好きな人の話をしてるのに気持ち悪いなんて言うわけないよって言ってくれてさ。勇気だけは、何も変わらないままだった。」


俺は、ワインを飲む。


「今回の未遂は、酷かったな」


凛は、涙を流してくれてる。


「ああ、そこまで追い詰められてるって思わなかった。せっかく、うまくいってきたのに…。勇気、洋服好きだから。服屋でバイト出来るって喜んでたのにな。」


「気づけないもんだよ。」


「いや、俺。わかってなかったんだよ。勇気の気持ち。あのさ、凛」


「何?」


「大宮さんに会わして欲しい。」


「どうして?」


「勇気の気持ちが知りたいんだ。勇気に直接聞けない。だけど、大宮さんなら、勇気の気持ちに近いんじゃないかって思ったんだよ」


凛は、少し考えた。


「だったら、こどはじのエキストラしてもらうか?」


「えっ?」


「車椅子なら、足に負担かからないだろうし…。俺、大宮さんには新しい世界を知って欲しくて」


「聞いてみるか?」


「うん、明日かっちゃんに言ってみるよ。それと、大宮さんにもメッセージしとくよ。」


「ありがとう。ごめんな」


「会ってくれたら、大宮さんにお礼いいな」


「わかった」


凛は、俺の頭を撫でてくれる。



俺は、勇気の気持ちが知りたかった。


助けてあげたかった。


1日でも、死ぬなんて考えないでいい日を作ってやりたい。


勇気のまた笑った姿が、見たかった。

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