鳴り響く電話

俺は、凛に抱き締められる。


「キスしようか?」


時々、凛はこうやって俺に尋ねてくる。


それが、堪らなく愛しい。


「いいよ、しよう」


唇を重ねようとした瞬間


リリリリーン


耳をつんざくように、携帯の着信音が鳴り響いた。


嫌な予感がする。


背中に、ゾクリと寒気を感じた。


「出ないの?はやて」


凛は、俺のスマホを渡す。


「ごめん。」


着信画面も、みずに出た。


「もしもし」


『もしもし、はやて君。瀬野です。』


「はい」


『勇気が、心肺停止で運ばれました。』


「えっ?」


『今、病院に向かっているのでどうゆう状況が説明できませんが…。これますか?』


「どこに、行けば?」


『メッセージ送ります』


「わかりました」


プー、プー、プー


切れても、スマホをずっと耳につけていた。


ポタポタと涙が流れる感覚が、頬を伝う。


「はやて、どうした?」


「勇気が、心肺停止で運ばれたって」


「えっ?」


ピロン


俺のスマホを取って、凛が話す。


「行くよ。何してんの?」


「パジャマだし」


「そんなの関係ないだろ?」


凛は、かっちゃんに連絡をした。


「すぐ、かっちゃんつくって。行くぞ」


足が、鉛みたいに動かない。


「はやて、早くしろよ」


「凛……。俺、怖い」


ガタガタ膝が、震える。


凛は、俺を抱き締める。


「まだ、死んだわけじゃないだろ?行くぞ」


そう言われて、俺は歩きだした。


マンションの下に降りると、かっちゃんが迎えにきてくれていた。


「ごめんな。休んでる所」


「今日は、仕事してたから大丈夫ですよ」


凛は、病院の場所を告げた。


しばらく、走って病院についた。


「じゃあ、待ってます。」


「休んでてな、かっちゃん」


凛は、パジャマ姿の俺を支えながら降りた。


夜間通用入り口から、病院に入った。


「ごめんね、はやて君」


勇気のお兄さんが、俺を見つめていた。


「いえ、勇気は?」


「大丈夫だったよ。先生が、頑張ってくれてね。こっち」


そう言われて、凛と病室へ行く。


「両親の発見が遅くてね。救急車の中で、一時心肺停止になったみたいなんだ。」


「そうだったんですか」


「中には、家族しか入れないらしくて、こっちから見れるって」


ガラス越しに、勇気が管に繋がられていながら生きているのがわかった。


「また、目覚めたらきてくれるかな?」


「はい、勿論です。でも、何で?来月には、短時間だけでも服屋のバイトが出来るって喜んでましたよ。」


「そうなんだよ。減薬もうまくいっててね。油断したんだ。」


お兄さんは、勇気のスマホを見せてきた。


「snsの知り合いかも?ってのに、友美ゆみちゃんが出てきたみたいでさ」


そう言われて見せられた、荒巻友美あらまきゆみのページ。


[祝、旦那が50歳なるまでに妊娠成功しました。ママになれます。めちゃくちゃ、嬉しくて幸せです。]


エコー写真と母子手帳の写真が、アップされていた。


「これ見て、勇気は…。」


「はやて君も知ってると思うけど、友美ちゃんが全部初めてで。勇気は、友美ちゃんしか知らないから…。どうしても、結婚したかったから…。だからね、ショックだったんだと思うんだよ。パスワード色んなsnsは変えさせる約束して変えたんだよ。だけど、これだけは、はやて君がみたいから嫌だって変えさせてくれなくて…。」


「そうだったんですね。俺のせいですよね。」


「違う、違う。俺が、パスワード変えさせとけばよかっただけだから…。はやて君は、何も悪くないから。まさか、出てくるって思ってなかったから…。」


お兄さんは、泣いていた。


「生きていたから、いいんだよ。だから、誰も悪くないから。また、目が覚めたら連絡するね」


「わかりました。失礼します。」


俺は、凛と歩きだした。


snsの怖さを改めて知った。


凛は、眉間に皺を寄せながら何かを考えているようだった。


俺は、勇気が生きていた安堵感で胸がいっぱいだった。

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