はやての想い

「俺、凛と付き合えて感謝してるんだよ。暴力しかしらなかった俺が、こんなに愛されるって思ってなかったからさ。」


「そんな風に言われたら嬉しいな」


「出会いから考えたら、もう五年かな?」


「そうだな。付き合ってからは、明日で三年だな。ごめんな。男なんか好きにさせて」


はやては、首を横にふった。


「母さんからも殴られていたから、女性への恐怖心は少なからずあったよ。怖かったから。凛とそうなって、よかったって思ってるよ。」


「ありがとな、はやて。俺は、やっぱり、はやてを好きになれてよかったよ。」


後ろから、はやてを抱き締める。


「大宮さんに会ったんだろ?どうだった?」


「いい匂いだったよ」


「はっ?何それ?」


「ヤキモチ妬いた?」


「ふざけんなよ」


「ごめん。でも、抱き締めてあげたくなっちゃったんだ。」


はやては、俺から離れて顔を覗き込んだ。


「何で?」


「大宮さん、片足が悪くてさ。不自由だなーって、まるで俺達と似てるなーって思ってさ。それだけじゃなくて、不妊の事。辛かったと思ったんだ。」


「それで、抱き締めてあげたくなったの?」


「悪いよな。浮気だよな。」


はやては、俺の手を握りしめる。


「別に、いいよ。でも、俺も会ってみたいかな。大宮さん」


「いい人だったよ。内側から滲み出てる雰囲気がよかったよ。女優ならよかったんだろうなーって思うぐらい。何か、色々考えてるのがわかる人だった。」


「へー。凛が、女の人にそんなに興味持つの珍しいね。」


「そうかもな」


ブー、ブー


「電話鳴ってるよ。」


「兄貴だわ、スピーカーにするよ」


そう言って、はやてはスピーカーにした。


「もしもし」


『もしもし、またあいつからかかってきてさー。嫁に言えないからさ』


「元嫁さん?」


『そうそう。養育費少ないからあげろとかの話。金狙ってんのムカつくわ。』


はやてのお兄さんは、お金を稼ぎ貯める能力はすごいけれど、人としては最低だった。


「あのさー。兄貴、子供出来ない人の事とか考えた事ある?」


『はぁ?子供出来ない奴なんて世の中にいんの?そんな奴、結婚したら駄目だろ』


「酷い言い方だな。今の奥さんだって出来てないだろ?」


『あー。あれは、もう45歳だから駄目だって。卵子が年いってるから無理だろ?年取ってんのと若いのは違うから』


「だから、兄貴。そういう言い方が」


『俺、はやてに説教される為に電話したんじゃねーし。何か今日、調子悪いのか?いつもなら、うんうん聞いてんじゃねーかよ。』


「ごめん。疲れてる」


『そっ、じゃあ、またかけるわ』


プー、プー



「クズ」


切れた電話にはやては、ボソッと

呟いた。


「大丈夫か?はやて、大宮さんの話ししたから剥きになったんだろ?」


俺は、はやての頭をポンポン叩いた。


「違うよ。関係ないよ。世の中に、苦しんでる人がいるって、ちゃんと知って欲しかったんだよ。」


「はやての兄ちゃんは、昔から金以外信じてなかっただろ?今さら、どうのこうの言ったって変わらないだろ?」


「わかってるよ。わかってるけど、一人でも、差別的な感情減らしたかったんだよ。女性は、子供を産むための道具じゃないんだよ。」


「でも、俺の親戚のおっさんも50過ぎだけど、そう言ってたぞ。女は、子供産めてなんぼだって。」


「だから、若い人ばっかりおじさんが取ってくんだろ?」


「あー。はやての幼なじみ、最近婚約破棄されたんだっけ」


「うん。48歳の人に取られたんだよ。中1から付き合ってて。もうすぐ、結婚だったのに。金も、地位も、名誉もあるおっさんに取られたんだよ。今は、自暴自棄だよ。」


「未遂繰り返してるんだろ?」


「ああ。ちょうど、こどはや撮影中にあいつの兄貴からかかってきて。来月、会いに行ってくるよ」


「そうだな。立ち直れたらいいな」


「無理だって話。仕事も辞めたから」


はやては、涙を拭っていた。


人生って、何でうまくいかないんだろうな?


俺は、はやてを抱き締める。


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