鼓動のはやさでわかる事(上映)
慌ただしくやってきた、7人のお客さんは、央美君が帰った後すぐに帰ってしまった。
「潮がひいたみたいに、帰っちゃったわね。先生だけになっちゃった。」
「奏太、何か飲んでくれ。」
「ありがとう」
奏太は、白ワインをいれて乾杯してきた。
「冗談だと思ってた。」
「何がだ…」
「央美君の事に、決まってるじゃん。優の冗談だと思ってた。」
「ああ、違う。」
「優が、仕事隠すって事は本気なんだね」
「寂しい顔するな。奏太には、彰がいるだろ?」
「俺は、優が好きだったよ。ずっと…。あんなガキに負けたくなかった。」
「酔っ払ったか?」
白ワインを飲む奏太は、私の手を握りしめた。
「本当の話だよ。央美君の父親を追い詰めて殺した弁護士先生。」
その目と、言葉にドキリとした。
「やはり、あの父親の息子だったのか…。」
「あれ?気づいてなかったの?」
「ああ、目元が似てる気はしていた。」
「嘘でしょ?先生」
「もう、先生じゃない。その呼び方は、辞めてくれよ。奏太」
「やめないよ。だって、先生は悪い先生のままやめちゃったんだから…。俺をガキの時、救ってくれた先生はもういなくなっちゃったじゃん。」
シュッとマッチに火をつけて奏太は、煙草に火をつけた。
「奏太、禁煙しろよ」
「死んだら、悲しんでくれるの?」
「当たり前だろ、友達なんだから」
「何、それ」
「奏太、医者からとめられてるんだろ?」
「たかが、喘息だよ。」
「前に発作酷くて運ばれただろ?息、吸えなくて…。死ぬんじゃないかって思った。わ、俺は、奏太も彰も大切な友達なんだよ。」
「私つけて、話すのやめれば?頭の固いおっさんみたいで、苦手だった。優は、俺が似合ってるよ」
奏太は、煙草の火を消した。
「奏太、俺は、この胸の鼓動がなんなのか知りたいだけだ。」
「どういう意味?」
「央美君に、会ったあの日に感じた鼓動の正体を知りたいだけだ。」
「それは、恋だろ?」
「違うのかもしれないな。」
「えっ?」
「さっき、奏太に父親だと言われて思ったんだ。これは、ただ罪悪感なのかも知れないって…。あの目に、見つめられて、あの人を思い出したんだよ。冤罪だった。」
「やっぱり、デタラメだったんだ。」
「ああ、だからこそ、罪悪感を引きずってる。いつもなら、もう少し調べていた。なのに、あの時は先輩を信じた。いつもなら、自分の目や耳で聞いた事しか信じなかったのに…。」
「疲れていただろ?裁判を三つも抱えてた。だから、仕方なかったんだよ。」
「仕方ないで、人の人生を終わらせたんだ。そんなのあっていいはずがないだろ?奏太」
奏太は、私にお水を差し出した。
「だったら、確かめてみろよ。自分の胸の鼓動が罪悪感で叩いてるのか…。彼と過ごして、感じてこいよ。もし、罪悪感なら…」
「罪悪感なら?」
「俺と付き合ってくれよ、優」
そう言って、奏太は俺の手を握りしめた。
「わかった。約束する」
久しぶりに、奏太と指切りをした。
「お疲れー」
その声に、手を離した。
「なに、なに、内緒話?」
「俺は、そろそろ帰るよ。お会計、いくらかな?」
「こっちも?」
「ああ」
「8000円」
「釣りは、いらない」
一万円を奏太に差し出した。
「もう、帰んの?タクシー、とまってないから、呼んだら?」
「いや、歩きながら拾うから大丈夫だ」
彰の顔を見れなかった。
「なに?どうした?変だぞ。優」
「ちょっと、飲みすぎた。じゃあ、帰るよ」
「あー。気をつけて帰れよ。また、三人で飲もうな」
「あぁ、わかった。」
カランカラン
俺は、店を出た。
俺達は、ずっと一方通行の恋をしていた。
彰は、奏太を、奏太は俺を、俺は亡くなった彰の兄を…。
小学校から、ずっと一緒だった。
去年、奏太が正式に彰に告白をされた。
俺も、奏太に告白されたけれど…。
無理だと言った。
奏太は、彰を選ぶべきだと言った。
胸の奥が、ザワザワとしたのを覚えていた。
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