鼓動のはやさでわかる事(上映)

優が、帰った店の中ー


「なぁ、奏太。二人何かあった?」


「何もないよ、はい。モスコミュール」


「なら、いいんだけど」


彰は、俺の手を掴む。


「許さないから、二人がそうなったら、俺、絶対」


力強い目に、奏太はゾッとする。


彰の嫉妬が、すごい事を忘れていた。


「指輪、買いに行こうよ、かなちゃん」


左手を自分の口に含み、舐める彰



カランカラン


「ごめん。お客さん」


ホッとしたのをバレたくなかった。


彰に舐められた手を洗った。


「いらっしゃいませ。」


カウンターにカップルが座った。


「カシスオレンジとビール。後、オリーブ食べたいからお皿に乗っけてくれない?」


「はい、わかりました。」


「お兄さん、綺麗だね。また、きたいなー。ここ。雰囲気もいい」


女の人は、俺を褒める。


「嬉しいです。女性一人でもきちゃってくださいね。あっ、俺は、女の子興味ないから彼氏さんヤキモチやかないでね。はい、どうぞ」


俺がいつもそう言うと、男性客は笑ってこう言う。


「それなら、一人で来ていいよ」


「やったー」


女性は、一人でこれるbarが出来ると喜ぶのだ。



かわって、優ー


歩きながら、胸が叩く音が罪悪感だと気づいた。


回想


「先輩、冤罪ってどういう事ですか?襲われたんですよね?」


「桜川先生、ガキじゃないんだから、そんなの自分で調べなくちゃ…ね?」


「私は、ただでさえ…」


「忙しいか?依頼は、全部お前に頼みたいって依頼者が言うのは、その面のせいだよな?」


パサパサと紙を当ててくる。


忙しさにかまけて、調べなかった私の責任だった。


二ヶ月後ー


「冤罪被せられて、死んだってよ」


バサッ…。


二流週刊誌が、机の上に置かれた。


「これ…。」


「まあ、息子の告白ってだけで訴える気はないらしい。所長が呼んでたぞ」


コンコン


「はいれ」


「失礼します。」


「これからどうする?桜川先生」


「辞めます。」


「そんな必要は、ないだろ?たった一回の痴漢事件で」


たった一回?


頭の中に、酷く引っ掛かった。


「辞めさせていただきます。」


「優秀なのに、残念だな」


「失礼しました。」


大手の弁護士事務所だった。


それから、たくさん面接に行くが所長の息がかかっていて無理だった。


あれから、一年が経った。


現在 14時ー


あの事を忘れてはいない。


昨日は、家に帰り泥のように眠り。


朝から数件の面接を終えた俺は、駅についていた。


「せんせーい。」


央美君が、手を振ってくれた。


ドキリと、心臓が鳴った。


「遅れただろうか?」


「バッチリですよ」


Vサインをして、笑う。


ドッ、ドッ、と鼓動が少しずつ速くなるのを感じる。


「映画を見たい。いいかな?」


「何、見るんですか?」


「牧原志織の、【恋の音色】だ。」


「へー。先生も、そんなベタなラブストーリー見るんですね」


「私を何だと思ってるんだ?」


「鉄火面ですね。あー。デートでしたね。手ぐらい繋ぎましょうか?」


央美君に、手を握られて鼓動がさらに音をたてて速くなる。


バシッ…


「いってー」


「すまない。必要ない」


振り払った瞬間に、央美君の手を叩いてしまった。


映画館につくと、央美君はポップコーンを見つめていた。


「食べたいか?」


「はい」


キラキラした笑顔で言われた。


「買おう」


ペアセットを頼んだ。


「コーヒー、トイレ行きたくなりますよ」


「オレンジが、好きなんだな」


私は、チケットを買った。


隣同士の席に、並んで座る。


平然と手を握ってきたのは、私を意識などしていない証拠だ。


と同じ事を映画が喋る。


『簡単に、抱き締めるなんて私の事などあなたは意識していないのよ。』


『そんな事はない。君を思うと心は、音楽を奏でるのだ。』


『嘘よ、嘘よ。』


ズルッズルッ…


隣の央美君が泣いている。


泣けるシーンなのだろうか?


私は、ハンカチを差し出した。


「どもっ」


小さい声で、央美君が言った。


ハンカチを受け取る時に、手が振れた、心臓がドクンと鳴った。

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