鼓動のはやさでわかる事(上映)

俺が、先生に出会ったのは、奏太かなたさんのbarだった。


カランカラン


「いらっしゃい、央美おみ君」


「どうも」


「人生どん底って感じね」


「また、振られました。秒でした。男にモテないのは、何故でしょうか?顔がダメですか?声でしょうか?」


「はいはい、オレンジマスカットでしょ?」


「はーーい。」


そう言って、奏太さんは、オレンジマスカットを作ってくれる。


「先生、ごめんね。うるさくて」


「いや、構わない」


先生と呼ばれた、その人は銀色の眼鏡をあげた。


「先生って、何の先生ですか?」


俺の言葉に、奏太さんがオレンジマスカットを差し出して言った。


「先生はね、有名な」


「うっ、うっ、ううん」


先生の咳払いに、奏太さんは話すのをやめてしまった。


「ごめんね。本人に聞いて」


カランカラン


「いらっしゃいませ。」


「7人です。」


「はーい」


「ごめん、先生と央美君、端につめてくれない?」


「わかった」


奏太さんは、申し訳なさそうな顔をした。


俺の隣に、先生が座った。


「それは、ジュースか?」


「お、お酒ですよ。オレンジリキュールをマスカットジュースで割ってもらってるんです。」


「不味そうだな」


先生は、ビールを飲んだ。


【なに、こいつ。感じ悪い。傷心しきってるのに、塩ぬんのかよ。くそったれ】


「心の声が、顔にでてる。」


「えっ?」


先生の笑顔に、胸がトクンと鳴った。


「君は、いくつだ?」


「25歳です。」


「そうか、ずいぶん若く見えるな」


「そうですか、あざーす。」


「フリーターか」


「わ、悪いかよ」


「自由で羨ましい。」


「はいはい」


先生は、俺の手を握る。


「私の相手をするか?」


「誰が、おっさんなんか嫌だ」


「君とあまり年は、変わらない」


「えっ?何歳?」


「28歳だ。」


【えー。スーツ着てると人間ってこんな違うの?俺なんかよりすごい大人なんですけど。何で、何でー。】


「心の声が、顔に出てるぞ」


「えっ?」


俺は、自分の顔を必死でさわった。


「興味がないのに、引き留めて悪かった。」


「か、か、か、金くれんなら相手してもいーぞ」


「いくら必要だ?」


「デート一回、一万だ」


「わかった、そうしよう」


「何で、そこまでして」


「別に、暇潰しの相手をしてくれたら嬉しい」


「はあ?暇潰しって何だよ」


「お金は、きちんと払う。ダメだろうか?言い出したのは、君だ」


「ダメじゃねーよ。ってか、君はやめろよ。俺の名前は、横田央美よこたおみだ。」


「央美君か、素敵な名前だな。私は、桜川優さくらがわゆうだ。よろしく」


「よろしく」


先生の手は、暖かい。


「お、俺は、先生って呼ぶからな」


「構わない」


先生は、ポケットのペンでコースターに電話番号を書いて俺に渡した。


「明日は、休みか?」


「ああ、悪いかよ」


「私も、午後から休みだ。さっそくデートをしよう。先払いだ」


一万円を俺に、差し出した。


「で、どこで待ち合わせ?」


「尾野見駅で、どうだろうか?14時には、いける。」


「わかった。じゃあ、尾野見駅に14時な」


俺は、こんなおっさん好きじゃない。


先生は、奏太さんにビールのおかわりを頼んだ。


「央美くんは、童貞か?」


「ブッー」


きたないな」


先生は、おしぼりでテーブルを拭いていた。


「童貞じゃねーわ」


恥ずかしくて、嘘をついた。


「そうか、それはよかった」


【何だよ、その笑顔。めちゃくちゃ怖いんだけど。】


「はい、おかわり。お待たせ」


奏太さんは、オレンジマスカットを置いていった。


「好きなのか?それ…」


「はい、これ以外飲めません」


「ビールは?」


「苦いですから、無理です。」


「そうか…。」


俺は、スマホを見た。


あー。狙ってた蓮からのメッセージだった。


「俺、用事あるんで帰ります。かな」


「私が、払っておく」


そう言われた。


俺は、お辞儀をして外に出た。




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