第6話 襲来、奇人変人二人組

「な、何がどうなって……?」


 この人、確かにユウって言った。

 僕の名前を呼んだからには人違いで抱きつかれたとかじゃなさそうだ。

 

 でもこの人、いったいどこの誰だよ?


 僕の予想ではひなちゃんのお姉さんだ、でも泣きながら抱きつかれるおぼえはまったく無いんですけれど……?


「仕方がありませんね」


 わけもわからずただ抱きつかれるままにしていると、緑色の髪をした少女が僕に向き直った。


「その愚劣ぐれつなメス猿は、生まれも育ちも日本国ですが日本語がドヘタなのです。頭がかぎりなく悪いのです。

 わりにこのわたくしがあなたに状況を理解させてさしあげます。

 よろしいですか? よろしいですね?」


 丁寧ていねいな口調で無礼千万せんばんなことを言う緑頭。

 彼女はまず深々と一礼して、そのまま両手を自分の頭に当てた。


「わたくし、こういう『物』です」


 スポォン! と、シャンパンのせんでも抜いたかのような快音が鳴る。

 なんと彼女の首がすっぽ抜けた!


「ひぃええぇぇぇっ!」

「ごらんのとおり、わたくしは人間ではありません」


 首なし女の腕の中で、首だけ女がしゃべっている。


「わたくしは人型汎用はんよう家庭ロボットOYO―MEⅢ型。

 個体名はミドリコでございます。

 そしてそちらの錯乱さくらんしたメス猿は――おや」


 僕はあまりの衝撃に目の前が真っ暗になった。

 だってすっごいホラーだよ、首だけ女がしゃべったんだよ!

 僕のチキンハートが耐えられるわけ無いだろう!


「ちょ、ちょっとー!

 いきなり死んじゃいやー!

 ユウさん目をあけて!」


 栗毛くりげの女性の声がすっごく遠くに聞こえる。

 遠くなっているのは僕の身体じゃなくて意識のほうだ。

 ああダメだ、もう、いしき、が……。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 なんかいいにおいがする。そしてちょっと息苦しい。

 僕の顔に何だかやわらかい物体が――。


「ふんぐぅう!」


 超ビックリした。それが第一印象。

 人間の横顔が僕の顔にくっついていた。


 意識が覚醒するとともにくわしい状況がわかってくる。

 僕は自室のベッドの上に横たわっている。

 服は学生服を着ていた。

 そして僕の上にいるのは先ほど泣いていた、ひなちゃんそっくりの女の人。


 彼女は何と、何と――。

 僕にキスをしていた。


「ぬななななな、なんッ、なんッ、何ィィィィ!?」


 飛び起きて彼女から離れる僕。

 彼女ともう一人、緑色の髪をした女はジロジロと僕を見ていた。


「ホントにおきちゃった」

「これは予想外の結果です。重要データとして保存しておくことにいたします」


「何事ですかこれは、あんた僕にいったい何を!」

「いやーえっとー、あはははー」


 栗毛の女性は後頭部をポリポリかきながら笑ってごまかそうとする。

 そんな仕草までひなちゃんに似ていた。


「貴方がいつまでたっても目を覚まさないので『キスでもしたら目を覚ますのではないか』と私が冗談を言ったところ、この単細胞は真に受けて貴方あなたに目覚めのキスをしたのです」

「目覚めのキスって、そんなんで目が覚めるわけないでしょ、どこのお姫様だよ!」

「さましたじゃん」

「覚ましましたよね」

「うっ、さ、覚ましたかもしれないけど……」


 今の、僕のファーストキスだったのに。

 そりゃ女の子ほど強いこだわりは無いかもしれないけど、いくらなんでも寝込みを襲われるなんて、そんな。


「残念ですがあなたの純潔じゅんけつはそのケダモノの毒牙どくがによってうばわれてしまいました」

「わざわざ深刻な言いかたすんなよっ、トラウマになるだろ!」

「申し訳ありません、設計者の趣味しゅみです」


 どんな趣味だ。

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