第4話 告白もせずにフラれました

 上機嫌のひなちゃんが、笑いながら僕の肩をバシバシたたき続ける。

 僕の魂はショックで幽体離脱寸前だ。

 

 ナニコレ。

 ボケとか失敗とかそういう次元の展開じゃないでしょコレ。

 何やってんだ僕は。

 死ぬ、いや死ね。

 そろそろマジで。


 フォローしないと、何とか誤魔化さないと。

 何とか、何とか、何とか――できないよ!

 どうしようもないよ、終わりだよもう!

 

 この世の終わりみたいにあわてる僕。

 それに反して、ひなちゃんの態度はあまりにもいつも通りだった。


「いやもう、センパイったらオジョーズなんだからぁ!」


 と言われつつうでをベシベシ叩かれる。

 何このおばさんのお世辞せじ合戦みたいな軽いリアクション。

 僕の絶望とは裏腹うらはらに、ひなちゃんは単純素朴そぼくに嬉しそうな笑顔を浮かべているのだ。

 なんでそんな単純に喜べるのさ、じらいとかトキメキとか無いの?

 マジでみゃくなさすぎだろこれ。


 ちなみに彼女は体操着に着替えていた。

 奥には同じく体操着姿の女子たちが数人。


「き、きききみたち、ラララン、ランニンぎゅ、かな?」


 色んな意味での精神的動揺どうようをおさえきれない僕は、セリフをみまくる。

 でもひなちゃんはお構いなしにハイ! と元気よくうなずいた。


「これからスポ魂なんです。バスケの試合ちかいですから!」


 それじゃ!

 と手を上げて彼女はチームメイトたちのところへ駆け足で行ってしまう。

 何のきも感じさせない、すごいなさで。


 僕は彼女の背中に手を振った……ような気がする。

 意識がぼんやりとしてしまい、はっきりとは分からない。


 僕の中に残されたのはむなしさだけだった。

 強烈な自己喪失そうしつ感にとらわれながら僕は家路いえじに向かう。

 もうこれ以上ここにいたくない。

 何も目に入れたくない。

 聞きたくない。


 ところが逃げる僕に向かって、さらなる追い討ちがかけられた。

 少し離れた広場でひなちゃんたち女子バスケ部が、準備体操をしている。

 彼女たちは右に左に身体を回しながら、僕の事を話すのだ。


「ねえ、ひなって、あの人と付き合ってんの?」

「ちがうよ」


 ひなちゃん即座に全否定。


「イゴショーギ部の部長で、あたしのシショーなだけだよ」


 ひどく簡潔かんけつで、それでいてグサリと胸に突き刺さる御言葉おことば

 そうだね、違うよね。

 でもそんなにアッサリ否定しないで欲しかったな……。


「でもあの人、ひなのこと好きっしょ?」


 周りの人にもバレバレだぁ。そりゃそうだよなー。

 ところが。


「えー、そんなことないよぉ」


 なぜか肝心かんじんの想い人が否定してくれます。

 話し相手も不審に思ったようで、声色が少し低くなった。


「アンタ、いくらなんでもその鈍感どんかんぶりは芝居しばいっしょ。あり得んよ」


 僕はつい足を止めて、ひなちゃんの返答に耳をかたむける。

 でも彼女が言いはなった言葉は、まったく思いもよらぬものだった。


「だってあたしはセンパイのタイプじゃないもん。センパイのこのみは年上だよ」


 ……ぽかんと開いてしまった口がふさがらなかった。

 言われた女子も同じ気持ちだったようで、口を開けて言葉を失っている。

 なにを言い出すんだこの子は。


「あたしってさ~、よく天然ボケだとかいわれるけど、こういうカンってはずれたことないんだよね~」


 いやいやいやいや!

 北極と南極くらい反対方向だよ!

 全米が驚愕きょうがくするレベルの間違いだよ!

 心の中で絶叫する。

 めんと向かって言う度胸は、ない。


 一瞬かぎりの興奮こうふんが冷めてしまうと、僕の心はもう真っ白に燃えつきはいになってしまった。

 無理なんだ、この子には何も通じないんだ。


 ゾンビのようにノタノタフラフラと歩を進め、学校の外へ向かって逃げる僕。

 後ろから「元気出してー」とか聞こえたような気がしたけれど、そんなのもうどうでもよかった。

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