どういうつもり?

買い物をして、帰宅したら8時を過ぎてしまっていた。


「ただいま」


「遅かったね。」


リビングで、由紀斗がビールを飲んでいた。


「ごめんなさい。残業してて。お刺身買ってきた」


「それだけでいいよ」


私は、お刺身をお皿にうつして由紀斗に渡した。


「お味噌汁は、食べる?」


「いらない、もう遅いから」


「ごめんね」


「いや、こっちも怒ってごめん」


「ううん」


私は、キッチンで一人分の野菜炒めを作った。


「忙しかったんだね?」


「試作品の味見していて」


「そっか」


「うん…。明日から何日?」


「4泊5日だよ」


「そうなんだね」


私は、野菜炒めをお皿に盛り付けた。


冷凍庫に置いてる味噌玉とわかめで、即席味噌汁を作った。


ご飯もよそって、持っていく。


「いただきます」


「どうぞ」


由紀斗に言われて、食べ始める。


「5年前は、一人で家にすらいれなかった梨寿りじゅが、パートをしてるなんてすごいね。」


「本当だね。」


シャキシャキともやしを食べる。


「子供の話、両親にしたけど…。不服そうだったよ」


「やっぱり、欲しいんだよ。由紀斗の両親は…。」


「そうかもね。でも、両親の為に子供を作るわけじゃないから…」


「そうだね」


由紀斗を見つめながら、ご飯を食べる。


「じゃあ俺は、先に休むよ」


「うん、おやすみ」


「おやすみなさい」


お皿を下げて、由紀斗は寝に行った。


一人で食べる食事は、どうして味気ないのだろうか?


また、出張なんだね。


行かないで、何て言えない。


排卵がいつ起きるかわからない体だと、タイミングは難しいと言われた。


はあー。


もっと治療するべきだった?


でも、進めなかった。


仲の良かった友達の一言で…。


[自然妊娠しないって、遺伝子レベルで合わないって事でしょ?それ、わざわざくっつけるとかないよねー。神への冒涜でしょ]


[いいすぎだよ。]


[私も、治療したんだけど…。体外まではいかなかったけど]


[あっ、そうだった。忘れてた。ごめん、ごめん。]


あっけらかんと笑った彼女は、大きなお腹を撫でていた。


引っ掛かったのは、私自身も不妊治療に抵抗があったから…。


ただ、それだけの事。


冒涜かあー。


お皿を下げながら、あの日、由紀斗と喧嘩したのを思い出した。


[先輩が、顕微鏡でできたらしいんだよ。俺達もやってみるか?]


[ふざけないでよ。軽々しく言わないでよ。嫌な思いも痛い思いもするのは私じゃない。由紀斗じゃないでしょ?それに、そんなやり方で子供なんか欲しくないよ。遺伝子レベルで合わないんだよ。私達]


言いすぎて、ごめんってすぐに謝れなかった。


いつもなら、謝れたのに…。


由紀斗は、酷い言い方だねってボソッと言って部屋に寝に行ってしまった。


愛してる人の遺伝子に嫌われてるなんて、思いたくなかった。


情けない、私。


その子とは、友達をやめた。


そして、由紀斗と私は不妊治療の話をしなくなった。


友達やめたのに、snsの申請を拒否出来なくて…。


4人目を妊娠してるのを知って、どん底の気分だ。


お皿を洗いながら、さっきの店長のは何だったのかが気になっていた。


お腹をさわられた。


店長は、私に何がしたかったのだろうか?


店長が、私にれたいなんてあるわけないよね。


勘違いだよね。


でも、店長の手はスベスベしていた。


胸が、柔らかかった。


いや、女の人にドキドキするってどうかしてる。


でも、店長なんの躊躇いもなく私の食べたフォーク使っていた。


あー。


頭の中が、グチャグチャする。


いつか、わかるよね。


それまで、店長の事を考えるのはやめよう。


店長の優しい言葉は、嬉しかった。


私は、女性としての自分を否定してた。


だから、店長が言ってくれた言葉がすごく嬉しかった。


店長みたいな友達がいたら、私の人生違ったかな?


今からでも、遅くないかな?


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