もう、我慢するのはやめる

昨日、黒瀬さんの話を聞いて我慢するのをやめることにした。


「今日から、出張?」


「はい」


「晩御飯、一人寂しいわね」


「ですね」


「店長と食べたら?」


「迷惑ですよ」


「いいですよ、食べましょう」


「店長、いいんですか?」


「はい」


願ってもないチャンスがやってきた。


6時にあがった、大宮さんと晩御飯を食べに行く。


「すみません」


「いえ、大丈夫です。」


店長で、よかった。


神様、ありがとう


「これ、食べてみたかったんですが?」


「ステーキですか?」


「迷惑ですよね」


「行きましょう。このまま、今日はあがりなんで」


「よかったです。」


大宮さんとステーキを食べに行く。


ニンニクたっぷりなものを食べてくれるなんて幸せすぎます。


「店長、昔、私一人で家にいれなかったんです。」


ステーキが運ばれてきて、大宮さんが話した。


「そうなんですね」


「怖かったんです。一人ぼっちで、あの家にいたら、子供が欲しい気持ちに押し潰されて」


ニンニクソースをかけながら、大宮さんは話す。


「一人で、ご飯食べるのも嫌だったんです。美味しくなくて、悲しくて、寂しくて…。この世界の誰も私を知らなくて死んでいくんじゃないのかって思って」


大宮さんは、ステーキを切って口に含んだ。


「今日、家に泊まっていいですよ。」


「そこまで、甘えるわけにはいけませんよ」


「甘えて下さい。」


私は、大宮さんを見つめて行った。


「じゃあ、店長が飲むの見てますよ」


その笑顔に胸が鷲掴みにされる。


ステーキを食べ終わって、店を出た。


「車で、帰りましょう」


「はい」


私は、大宮さんを自分の家に連れてきた。


「お酒飲んでくださいね」


「大宮さんは?」


「飲めなくなってしまったんです」


「そうでしたか…。」


私は、冷蔵庫に冷やしていた緑茶を入れて差し出した。


ビールを開けた。


「店長、昔、友達が言ったんですよ」


大宮さんは、遺伝子レベルで嫌われてるとか神への冒涜だとかの話を私にした。


治療をしたくなかったのは、それが引っ掛かったのかもしれないと話した。


その人が、四人目を妊娠していてお祝いはオムツにしましょうか?と話した。


「贈る必要ありますか?」


私の言葉に大宮さんは、膝を抱えて座る。


「店長、私は今39歳の大人です。あの時は、30前半だったけど…。大人は、色んな事を飲み込んで生きていくものでしょ?」


と笑った。


「大宮さん、それなら私は大人でなくていいですよ。飲み込むぐらいなら、大人にならなくていい」


「店長だって、沢山飲み込んできたんじゃないですか?そんな風に言わないで下さい」


私は、大宮さんを抱き締めてあげたかった。


その唇にキスをしてあげたかった。


私の愛をずっと注ぎ続けてあげたかった。


今にも消えてしまいそうだった。


大宮さんの涙が、抱えてる膝を濡らしていく。


「辛いのに、悲しいのに、無理しないでいいんですよ」


私は、大宮さんの頭を撫でる。


「店長みたいな友達が居たら、私の未来は違ってたかな?」


友達………。


その言葉に、胸がズキンと傷んだ。


「これからだって、違いますよ」


泣きそうになるのを堪えて、ビールを取りに行った。


「足の装具外して大丈夫ですよ」


「はい」


大宮さんと、友達になんてなりたくない。


私は、ビールを飲む。


「店長も、明日休みですか?」


「はい」


「同じですね」


「はい」


同じにしたんです。とは、言えなかった。


「足のマッサージしましょうか?」


「悪いですよ」


「大丈夫です。お腹は、痛くないですか?」


「はい、大丈夫です」


私は、大宮さんの足のマッサージをする。


れていられるだけで、嬉しい。


「あっ」


「痛いですか?」


「膝の裏、くすぐったいです」


そう言って、笑った。


大宮さんの痛みを、まるごと取り除いてあげたい。


愛されたいけど、無理なら仕方ない。


友達は、嫌だけど…。



れられるなら、構わない。

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