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危急の連絡を受け、近くのタソス島に停泊していたトゥキュディデスは、配下の七隻の船を率いてアンフィポリスに急航したが、彼の艦隊がストリュモン河口に到着したとき、敵将ブラシダスはすでにアンフィポリスの守りを固めた後であった。


ブラシダスは巧みな弁舌でアンフィポリスの住民を扇動し、トラキアの原住民と、アテナイからトラキアに金を掘りに来た鉱夫らを離間させた。アンフィポリスに居留していたアテナイ人らは、ブラシダスの勧告に従ってアンフィポリスを退去した。


ブラシダスはアンフィポリスを完全に掌握した。

トゥキュディデスはアンフィポリスを逃れたアテナイ人らを再編成してブラシダスと対峙したが、ブラシダスが住民の心をつかみ固く守ったため、トゥキュディデスは攻めあぐんだ。アテナイの民会はトゥキュディデスを本国に召還し、裁判にかけた。民会は、アンフィポリスがスパルタの手に渡り、長きに渡って何の進展も見られないのは、当然、みずから進んでパンガイオン金山の採掘権を買い取り、その功績でトラキア方面総司令官に任命されるにいたったトゥキュディデスの責任である、その上に、彼は終始、意図的に職務を遅滞させ、敵を利したと難癖をつけ、彼に二十年間の追放処分を科した。

アテナイ人は裁判と投票によって救国の英雄を追放することを好む。

移り気な大衆を扇動して人気を取る政治家だけが生き残る。

アテナイはそうしてかつてペイシストラトスの子ヒッピアスとヒッパルコスを、テミストクレスを、そして今またトウキュディデスを追放した。スパルタは賄賂とスパイをアテナイに送り込み、政争を煽った。その結果失脚したアテナイの将軍や政治家を、己の国で保護することを好んだ。


トゥキュディデスはその後も何度か、寄宿地のスパルタからアテナイに書簡を送ったが、結局彼の追放令が解かれることはなかった。

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