行かないで

先輩が、来てくれたのが嬉しかった。


指を扉で挟んでしまった。


アイスノンを渡した時に、首に傷があるのを指摘された。


気づかなかった。


首?


先輩が出ていった後、急いで鏡を合わせて確認した。


「たつおみー」


手鏡を落とした。


首の後ろに、傷があった。


先輩を掴まえたくて、家を飛び出した。


鍵、早く閉まれ。


階段から、走って降りた。


先輩は、ゆっくり歩いていた。


「由紀斗さん」


腕を引っ張った。


「千尋、涙ってどうやって止めるんだっけ?」


俺の為に、泣いていた。


「由紀斗さん、行かないで」


俺は、引き寄せて抱き締めた。


「誰としたの?俺を愛してなかったの?」


首の傷を撫でて、先輩は言った。


「きて」


俺は、先輩を家に連れて帰った。


落とした、アイスノンを拾って先輩の手に握らせる。


「千尋、誰を抱いたの?俺とは、やめたかったのに?その人とは、出来たの?」


「由紀斗さん、何でそんな泣くの?」


「千尋に抱かれてから、もう梨寿りじゅを抱けないのに気づいたからだよ」


先輩は、そう言うと立ち上がってまた帰ろうとする。


「由紀斗さんとしかしたくなかった。」


俺は、先輩を後ろから抱き締めた。


「じゃあ、何で?」


「きて」


俺は、先輩をソファーに座らせた。


さっき、辰己たつおみ先輩を抱いた場所に座らせてる。


「ここで、やったんだな」


先輩は、何故かそう言った?


「何で?」


「煙草の匂いがする」


そう言った。


「嫌なら、やめてもいい。じゃなくて、はなした」


先輩は、キスをしてきた。


「由紀斗さん……?」


「ほら、もう熱くて」


俺を感じてくれる体を抱き寄せる。


机の下のストックを取る。


「嫌だ、つけなくていい。」


先輩は、俺の手を掴んだ。


とろけた顔をもっと、とろけさせたくて…。


俺は、必死で先輩を抱いた。


「ちひろっっ」


「由紀斗さん、愛してる」


女の子みたいに可愛くて、もっと食べたくなってしまった。


でも、話をしなくちゃ…。


ちゃんと…。


「千尋」


ソファーに横たわる由紀斗さんの左手をアイスノンで冷やす。


「ジンジンする」


「痛い?」


「うん」


涙を拭ってあげる。


「朝、やめたいって言ったのは辰己たつおみ先輩との関係だよ」


「誰、それ?」


「高校の頃の先輩」


「脅されてるのか?」


その言葉に俺は、頷いた。


「二十歳の時、同級生の早坂と辰己先輩を含めた7人でお酒飲んではやりまくってた。ベロベロに酔いつぶれた俺が、目を覚ますと…。早坂が、血を流して、トイレも垂れ流してて、息も苦しそうだった。」


「生きてるのか?」


「生きてる。下半身不随で…。どうやら、俺がやったらしい。先輩達は、それを見ていて動画にも撮られてる。」


「もし、それが出回って会社にいれなくなったら二人で何か始めようか?」


「由紀斗さん」


「だから、もう俺以外としないでくれ。お願いだよ、千尋。千尋が誰かを抱いてると思うとおかしくなりそうなんだ。」


由紀斗さんは、震える手で俺の頬にれた。


「俺もだよ。由紀斗さん以外ともうしたくないよ。」


俺の震える手を由紀斗さんが握りしめた。


「もう、一人にさせないから…。千尋、俺が守ってやるから」


「由紀斗さん」


俺は、由紀斗さんの唇に唇を重ねた。


もう、嫌だ。


由紀斗さん以外とそうなりたくない。


「そいつを忘れてくれた?」


由紀斗さんは、俺の頬を撫でながら言ってくる。


「当たり前だよ。俺の全ては、由紀斗さんのものだよ。ちゃんと、受け取ってよ。由紀斗さん」


「俺の全ても千尋のものだよ。受け取ってくれるか?」


「当たり前だよ」


「俺もだよ…」


そう言って、キスをした。


由紀斗さんだけが、信じてくれるならそれでいい。


もし、動画が出回って、会社にいられなくなっても…。


由紀斗さんといれるなら、それだけでいい。


「愛してるよ、千尋」


聞きたかった言葉を聞けたのが、嬉しくて、俺は、またキスをした。

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