会いたい

リビングにいると、梨寿りじゅが、お風呂から上がってきた。


「さっき、乾燥終わってたよ」


「畳むよ。ありがとう」


「シャツ、アイロン当てようか?」


「いや、自分でするよ。」


「出来ないでしょ?」


「クリーニング屋に持って行ってくる」


「それが、いいね」


そう言って、梨寿が笑った。


「梨寿、俺達…。」


「子供に縛られる人生は、嫌。でも、由紀斗といると子供が欲しくなる。」


「わかってる。それでも俺は、梨寿を愛してるよ。」


「由紀斗、私も愛してるよ」


「親友になれる努力するから」


「うん。私、少し休むね」


「俺、クリーニング屋行ってくる」


「気をつけて」


俺は、洗面所に行く。


洗濯機から、洗濯物を取り出しながら思う。


どう考えたって、もう無理なのだ。


子供を諦めた時からわかっていた。


いつか、こんな日がくれば俺達はきっと終わってしまうと…。


市木に抱かれて俺は、おざなりな営みに戻れそうになかった。


梨寿とすれば、子供が欲しくなる。


だから、もう抱けない事を感じてる。


何も考えずに、その行為に溺れられる事が、こんなにも幸せだった事を市木に抱かれて思い出してしまった。


梨寿も、そうだったんだろ?


シャツが、一枚足りないのに気づいた。


あれ、初めて自分で買ったシャツだったんだよなー。


本当は、連絡するのを躊躇っていたけれど、シャツを諦められなくて、千尋に、メールをした。


だって、五万も払ったんだよ!


あんな無地のシャツに…。


洗濯物を寝室に置いて、エコ袋にカッターシャツを5枚放り込んだ。


俺は、家を出た。


戸建ての売却も考えなきゃな。


俺は、駅前のクリーニング屋さんに向かって歩く。


市木に会いたくなってしまった。


今は、ただ梨寿を忘れて、市木に抱かれたい。


クリーニング屋さんで、カッターシャツを出した。


「ありがとうございました。」


明日には、できるのか…。


これからは、纏めてクリーニングだな。


スマホを取り出して、市木の番号を見た。


それだけなのに、身体中が熱を持っていく。


シャツあるかわかんないって言われたけど、かけてみよう。


俺から、連絡しなきゃ…。市木からかけてくることなんてないだろう?


ブー


[今日は、真白ましろと晩御飯食べます。]


[わかった。俺も食べてくる]


梨寿からのメールで、決心がついた。


プルルー


「はい」


「市木、シャツあった?」


「ありましたよ。」


「取りに行くよ」


「今からですか?」


「ああ、駄目かな?」


「駄目じゃないですけど…住所、メールします」


プー、プー


冷たかったな。


俺は、タクシーに乗って送られてきた住所を話した。


ついて、料金を払った。


えっと、5階だな。


ここか…。


ピンポーン


ガチャ


「シャツどうぞ」


「ありがとう」


「じゃあ」


「待って」


扉を押さえた手ごと閉められた。


「いてー。」


叫び声が、反射した。


「大丈夫ですか?」


市木は、扉を開けてくれた。


「ごめん、ごめん。帰るから」


指が、めちゃくちゃ痛くてジンジンする。


「大宮先輩、冷やすのあるから」


市木は、俺の腕を引っ張った。


初めて、市木の部屋に入った。


何か、嬉しいな。


「これで、冷やして下さい。」


アイスノンを渡された。


「市木、誰か抱いたの?」


「えっ?何、言ってんですか?」


「その首の傷、なかったよな?」


イライラしてる。


ヤキモチ妬いてる。


「首の傷ですか?自分で引っ掻いたんですよ。」


「俺、帰るわ」


市木にまで、捨てられたくない。


アイスノンを市木に、返した。


ゴトッ


受け取ってくれずに、落ちた。


かすかに残る煙草の匂い…。


やっぱり、誰かを抱いたのだ。


ガチャ…


玄関を出た。


涙が、止まらなかった。


あんなに優しくしてくれたのは、嘘だったのかよ。


市木にれられた腕が、ジンジン熱を持っていく。


挟まれた指先も、ジンジン熱を持っていく。


痛くて、消えたい。


痛くて、死にそう。


今、家に帰ったって、梨寿はいない。


どうしよう、涙ってどうやって止めたんだっけ?



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