違うのに…

シャワーに入った由紀斗さんを抱き締めて、「やめたい」と言った。


「違うよ」って言ったのに聞いてくれなかった。


やめたかったのは、先輩とのあれで…。


ちゃんと話を聞いてもらいたかった。


俺は、馬鹿だ。


由紀斗さんを傷つけた。


楽しそうに、お土産を選ぶ由紀斗さんを見て、嫉妬に狂いそうだった。


新幹線は、別の席が空いていてよかった。


さよならをして、家に帰った。


由紀斗さんに、かけたくてやめる。


誤解だって、言いたい。


スーツケースから、洗濯物を取り出して洗濯機にいれて回す。


間違って、由紀斗さんのシャツを持ってきてしまった。


最悪だ。


由紀斗さんの匂いがして泣いた。


由紀斗さんとの事が、やめたかったわけじゃない。


シャツを抱き締めながら泣いた。


会いたいよ、由紀斗さん。


ブー、ブー


「はい」


「イチ、出張?」


「さっき、帰ってきました。」


「じゃあ、丁度よかった。ちょっと話あるから、家行くわ」


「はい」


震えながら、電話を切った。


由紀斗さんのシャツを、洗面所の扉に隠した。


ピンポーン


ガチャ…。


「はい」


「イチ、久しぶりだな。」


「一ヶ月ぶりぐらいですか?」


「飲もうぜ」


「はい」


俺は、辰己たつおみ先輩を家にあげた。


「次も、また出張。」


「はい、先月一人、結婚しちゃったんで。俺に、全部ふられました。」


「その割に、嬉しそうじゃん」


ガンっ


テーブルの上に、先輩はビールを置いた。


ビクッとしてしまった。


「そんなわけないですよ。既婚、子なしのおっさんとセットで、今回も困りましたよ」


俺は、そう言って窓を開けに行く。


「灰皿ですよね?」


先輩に、灰皿を渡した。


「サンキュー、まあ、飲もうや」


缶を合わせた。


ピーンと音が鳴って、ジュボッって火をつけて煙草を吸った。


「ふー。イチは、一ヶ月してないだろ?」


「あー。まー。そうですね」


「たまってるだろ?」


やめてくれ、由紀斗さんがいなくなる。


「一人でやったりしてますから」


「いれんのは、出来ないだろ?」


「ですね」


「イチは、セックス依存だもんな」


違う、違う、違う。


「ですね」


少し水が入っていた灰皿に、先輩はタバコをいれた。


ジュッって音がして消えた。


「イチ、セックスしにきた。」


「先輩、窓閉めま…」


キスをされた。


煙草臭い舌を無理やりいれられた。


「窓閉めないと」


「聞かせとけよ。イチのいい声」


辰己先輩は、そう言って俺のチャックをおろす。


「まだ、帰ってきたばっかで。風呂もはいってない…」


聞かずにされた。


もう、いいや。


どうなったって…


「イチ、すごっ、ぁぁ」


「女みたいにもっと鳴けよ」


俺は、先輩に腰をふって中に出した。


「ハァー。イチ、すごい。また、やろうね」


もう、どうでもよかった。


由紀斗さんとした感覚が消えた。


先輩は、ビールを飲み干した。


「イチ、帰るわ」


「飲むんじゃなかったんですか?」


「残りは、イチにあげる」


「先輩、何できたんですか?」


「決まってるだろ?イチに新しいやつが出来たか確かめにきただけだよ。まあ、出張先でメスを抱いたのは許してやるよ。イチ」


舌をねじ込ませてきた。


食いちぎってやりてーほど、ムカついた。


「じゃあな」


「気をつけて」


ガチャン…


扉を閉めて、鍵をかけた瞬間。


膝から崩れ落ちた。


由紀斗さんが、消えてしまった。


俺は、床を這いつくばって洗面所にきた。


扉を開けて、由紀斗さんのシャツを抱き締めた。


「あー、あー。」


由紀斗さん、また俺、よごれちゃったよ。


スマホの写真から由紀斗さんの寝顔の写真を押した。


もう、れられない。


胸が痛くて、苦しくて、たまらなかった。


俺は、シャツをゴミ箱に捨てた。


ブー


[市木の荷物に、シャツ紛れてなかったか?]


[なかったと思いますけど]


[なら、いいんだ。]


[あったら、返しますか?]


[それ、お気に入りで。もう、売ってないから、あったら頼むわ]


[わかりました。]


由紀斗さんからのメッセージに、心が震えた。


俺は、ゴミ箱からシャツを取った。


お気に入り?


こんな無地のシャツどこで買っても一緒だろ?


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