第5話 深まった謎

 そう言って英子さんはスマホを差し出してきた。繋がっている様子だ。


 耳を傾けると。


(久しいな。若先生)


 辛うじて聞き取れる流暢な英語だった。そう僕をハーバード大学入学のきっかけを作った人物。


「カーツ元帥……」


(元、だよ。今は引退して後進に譲っている。さて、私も役割を果たす時が来た様だ。と言っても、君には何のことか分からないだろうな)


「ええ、意味が全く」


(私が推薦した。Ms.英子は我々の協力者であることは薄々気付いているな)


「ええ、ですが」


 繋がり方が意味不明なのだ。


(Ms.英子に探し物の依頼人を推薦したのは私だ。君は君自身が思っている程愚か者ではない。そして書簡にはイエス・キリストにまつわる資料も含まれているのだ)


「つまり神の神性は否定されると?」


(逆だ。教会の歴史が正しいことを証明する書簡だ。これは科学界に過剰反応をもたらすもので現時点では封印指定だ。君も聴いた憶えはあるだろう。ラジエルの書の一部が入っているのだ。千年以上前にどこで手にしたかは不明だがね)


 つまり、米国にとって有意義な技術や理論が載っていると言う訳だ。

 世界の知識を詰め込んだ書物なら機密扱いも当然だ。それを見てきた英子さん達も機密の中に含まれる。


(まあ、バチカン市国も同じ様なものを保有しているが、そこは協定を結んで上手くやっているのだ)


 しかし、それでも謎は解けない。


「なぜ僕なのですか? 他にも適任者がいた筈です。カーツ元帥」


(それこそが核心だな。私が日本に赴くまで答えを見出せるかな?)


 英子さんはうやうやしく微笑みながら意味深長なことを語る。


「最大の神秘に挑戦なさって下さい。先生」


 そう言う英子さんは穏やかに礼節正しく促した。


「英子さんの秘密を、ですか?」


 困った様な振りをして菊さんが微笑んだ。


「先生が先生と向き合うことなのです」


 どういう意味なのだろう。


 今回、事件は探し物だった。次なる事件が僕自身? 全く謎だ。


 とりあえず、今回はここまでにしておこう。


 うーん、僕と向き合うとはどういう意味なのだろう?


                 ―了―


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探偵牧師物語 その参 佐藤子冬 @satou-sitou

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