第4話 古の遺産

 その間、菊さんと話したいことがあった。


「なぜ、僕の婚約者などと名乗り出られたのですか? 菊さんなら自由に出来たでしょうに」


「すみません。そのことは未だ話せないのです」


「そうですか。それにしても今夜は月が綺麗ですね」


「ええ、月と地球は切っても切り離せない関係ですね」


「うん?」


 何の話をしているのだろう? 地球が関係しているのは何かの隠喩かな?


「いずれ、判る日が来ますよ」


 彼女はそう言って微笑んで寝床についた。僕も自室に戻ろう。


 八日目、遂に目的の品が見つかる。外面は錆びついているが、内面は果たしてどうか?


 慎重に開けた。中に残った絹の状態は良かった。巻物の状態も良好だ。


「因果ね」


 英子さんが謎めいた言葉を使う。


「これは景教の教典ですね」


 景教。またの名はネストリウス派とも言う。ローマ・カトリック教会と対立した一派だ。景教は中国では唐の時代に栄え、元の時代にも栄えた。その後は衰退し、中東方面に細々として暮らしている。


「まさか、創設者の書簡があるとは思いもしませんでした」


「だからこそ宗教に熱心な米国は私達との繋がりを持とうとしたのです」


「それだけではありませんね」


「ええ。私達は米国との繋がりが深いのです。私の論文はゲーム理論に関わるもので戦略的に価値があった。だからこそ米国は私の研究の全てを秘密裡に扱ったのです」


 からくりが見えてきた。


 この教会は英子さんを護るものだ。資産家は大抵護衛を付けている場合が多い。教会員はほぼ資産家。


 だが、護衛が護っているのは英子さんなのだ。よく出来たカモフラージュだ。


「しかし、解けない謎があります」


「そうですね」


「なぜ僕に依頼したのです? 他にも信頼出来る人物がいた筈です」

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