第56話 過干渉

 「アレクサンドルさん。理久とどこで知り合いました?」


 翼が、隣りを歩くクロの顔を見て聞いた。

 理久は、聞かれたくない質問にドキっとした。

 しかし、クロは翼の顔を見て余裕の態度で返した。


 「ああ。昨日、この公園で会ったんだ。俺が青葉美術館に行く道を理久に聞いて教えてもらった。美術館の帰りも犬を探してた理久と再会して、明日お礼に食事でもって理久を誘ったんだ」


 青葉美術館は、この公園から少し離れているが、最近は外国人観光客がとても多いのでクロの話しには説得力があった。

 しかし、理久の緊張は止まらない。


 「へぇ……理久が、美術館までの道をねぇ…へぇ……本当ですか…」


 翼がそう言いクロに目をかなり細めにっこりすると、クロも翼に微笑んだ。

 

 (本当に、ヤバい……クロと翼……マジ仲良さそう…)


 それを見た理久は、真剣にそう思いやはり気が気で無かった。


 (やっぱ人型になったクロ……翼の事が気にいったのかも?…)


 理久は最悪を予想し、薄っすらと額や背中に汗すらかきはじめた。

 そこに翼が、まだクロを見ながら言った。


 「俺、理久の事はよく分かってるんですよ。理久って、小さい頃から方向音痴だし人に道教えたりも凄い下手くそなのに、ちゃんとアレクサンドルさんには教えられたんだ。小さい頃の理久は、ちょっと近所に遊びに行くのにも方向音痴過ぎて、いつもずっと俺の傍を離れなかったんですよ……ずっと、俺の傍をね…」


 それを聞いて、理久はハッとして思った。


 (翼!確かに翼は俺よりレベルが上の人間だ!もうクロもそう思ってるかも知れない。でもこれ以上、クロの前で俺の事下げないでくれっ!)


 そして理久は、翼の話しを中断させた。


 「ちょっと!」


 「うん?」


 翼は、理久を見てにっこりした。

 翼は、ただ普通に笑っただけだったがその威力は絶大だ。

 理久は、やはり笑顔も翼に勝てないと思った。

 そして理久は、ここで変に足掻いても、犬型だった頃のクロはすでに理久と翼の格差を見ていたはずだし、今の人型のクロにもそれはバレているはずだと悟った。理久は、次の言葉に詰まった。

 すると…クロが今度は理久を見て

言った。


 「理久は、今の理久は方向音痴じゃないんじゃないかな。俺がこれからどうしたらいいか悩んでいたら、ハッキリこれから進むべき道を理久が教えてくれた」


 そしてクロが、今度は理久に微笑んだ。

 その笑みを見て理久は、もしかしてクロがやはり理久の事を想ってくれてるかも知れないと希望の光を見い出した。

 しかし、翼は納得してないような声を出した。


 「どうだろうな?理久は、俺からしたら頼りなくて。理久に、友達ならともかく恋人でも出来たら、理久にふさわしい人間がどうか……俺がじっくり色々吟味してやらないとと思ってるんです」


 確かに、翼の理久への干渉は、小さな頃から凄かった。

 しかし裏を返せば翼は、理久の隣りでいつも理久を補助してくれてきた。

 そして、今は学校が別々で流石に以前程で無いにしても、理久も自立しないとと思いながら、この年まで結局翼の過干渉を拒めずにきた。


 「ちょっ……何言ってんだ、翼!」


 理久は慌てたが、その後ふっと思った。


 (もしかしてクロは……翼の俺へのいつもの度が過ぎる干渉を知ってるから、今は面倒臭い事にならずに早くあっちの世界に帰る為にわざとクロと俺が友達だって翼に言ったのかな?でも、翼もいくら俺が幼馴染でも恋人の事まで心配し過ぎ…)


 そして、クロと翼は歩きながら互いを見たが、クロは又余裕有り気に笑って翼に言った。


 「それは……理久の恋人になる者は覚悟がいるな…」


 理久は、そんなクロと翼を見ていたが、ふと見た翼の斜め掛けカバンの底が、翼は何も触ってないのに小さくコモっと動いた感じに目を見張った。

 周りは暗いと言っても、公園の外灯の明かりでハッキリ見えた。

 しかし翼は、クロに気を取られ過ぎてるのか?全く気付いて無い。


 「あっ…」


 理久はその事を翼に伝えようとした。

 しかし、クロが理久を見詰めながら間に入って言った。


 「理久…これから先、ちょっと色々あるかも知れない…」


 これは普通に考えれば、翼の言った理久の恋人吟味が云々に対しての言葉のようだったが…

 だが理久は、翼のカバンの中の異常について言っている気がした。何故か、そんな気がしたのだ。

 そして理久は、カバンの中の事はすでに少し前にクロは気付いていて、クロに何か考えがあると思い、今は何も言わず様子を見る事にした。だが、当然、イヤな予感もした。


 (もしかして、異世界から俺とクロにくっついて、何かが一緒に来てしまったのか?)


 そして多分、クロはあのカバンの所為で時間が無いのに翼に付いて行かないといけなくなったのだと思った。





 



 


 






 


 





 


 

 

 


 


 

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